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NIH症候群を制御せよ/日沖 博道

INSIGHT NOW! / 2016年9月28日 7時7分

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日沖 博道 / パスファインダーズ株式会社

新規事業の発案元に関するアンケートに基づく記事を最近見つけた。それによると、新事業の発案者の7割近くは経営者であり、それに次いで事業部門長が半分近くを占めるそうだ(複数回答)。一方、社外の取引先や提携先が締める割合は1割強、顧客からの提案を発祥とするケースは5%弱。外部コンサルからの提案によるものが最下位で、3%にも満たないそうだ。

外部の経営コンサルからの提案によるものが随分少ないと感じるかも知れない。「経営コンサルといえどやはり外部からでは分からないのだろう」もしくは「コンサルの思い付き程度では事業化にまでは至らないのだろう」と考える人が多いだろう。

ある意味その通りであり、さらに隠れた追加的な理由も考えられる。

そもそも外部から新事業を提案される事態というのは多くのビジネスパーソンの感覚からするとあまり尋常ではないだろう。イメージとしては、ある日著名な外資系コンサルタントが乗り込んで来て、経営者に向かって「社長、お宅は是非これこれの事業に乗り出すべきです」と宣告するという次第だ(実際、こういうパターンがバブル経済華やかなりし頃や、その崩壊直後には多かったと聞いている)。

当然、「はいそうですか」と受け入れることは大概の経営者のプライドが許さないだろう。また、コンサルタントの持ち込む提案と似たようなアイディアは社内でもとっくに検討しているということもありそうだ。

それ以上に現実的に多いと思われるのは、新規事業を企画立案するプロジェクトの中でコンサルタントチームが主体となって発案するというパターンだ。これ自体はそれほど特殊な事態ではなく、小生もADL時代によくやっていた。

しかし肝心なことは、コンサルタントが提案したアイディアの場合(いくら良いものでも)、事業化まで至る確率が低いという現実が、先の記事でも浮かび上がるということだ。最初から外部コンサルが新しい事業アイディアを持ち込んだか、新規事業を企画立案するプロジェクトの中でコンサルタントが発案したかは問わない。社内スタッフが発想した事業企画に比べ、最終的に事業化にまで至らずに終わることが少なくないということだ。

なぜか。社内スタッフが中心になって着想した場合と比べ、どうしても愛着が沸きにくいのだ。これはオーナーシップ(「所有者感」とでも云おうか)の問題である。

「これは自分たちが生んだ事業企画だ」と思える場合、その肉付け作業やFSといった地道な作業を経て事業立ち上げまでの面倒かつしんどいプロセスも耐えられる。しかし外部由来のアイディアでは担当責任者にそこまでの思い入れは生じにくく、事業化までのしんどいプロセスに耐えてまで頑張ってくれる人はなかなかいない。

さらに付け加えるなら、その長くしんどいプロセスの間、担当者たちを常に叱咤激励してくれる役員の存在が重要だ。

本当に実現できるか、そして利益を生むか分からない段階から、何人かの人数が関与して検討やヒアリングで多くの時間を費やすため、延べ人数にすると相当な工数となる。それでも新規事業開発が経営の最重要課題の一つだと認識している経営者が大手企業には多い。だから着想者が役員本人の場合はもちろん、社内出自であれば、可愛い部下が考え出したアイディアを実現するために苦労しているチームをサポートしたくない役員は滅多にいない。

しかし外部の人間が考えたアイディアの場合(当初は素晴らしいと思われたものでも)、どうしてもその後の扱いが辛口になりがちで、すぐに事業化が難しいとなれば、我慢強くサポートする代わりに引導を渡すことになりがちだろう。

こうしたNIH症候群を非難することはたやすいが、人間心理に根差したものゆえに企業現場から排除することは難しい。現実的なやり方はむしろ「制御する」ことだ。つまりそうした心理が生じやすいことを前提に、いかに実害をなくすかに工夫を凝らすのである。

かなり昔だが小生にもNIH症候群による苦い経験が幾つかある。そうした経験を重ねた結果、弊社では新規事業案を企画するプロジェクトでもコンサルが主導して新事業を着想する方式は執らない。あくまでコンサルはファシリテータとしてプロジェクト参加者の着想やその発展を促す役に徹するようにしている。

もちろん、着想のヒントや他業界の類似ネタを出したり、「例えば…」という形で方向づけをしたりすることはある。その場を経営者の方々が見たら多少まどろっこしい部分もあろうが、結局はそのほうが事業化実現の可能性が高くなると信じているからである。参考にしていただけると幸いである。

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