深刻ではないトランプ氏の要求
Japan In-depth / 2016年5月6日 18時0分
文谷数重(軍事専門誌ライター)
米大統領候補トランプ氏は在日米軍駐留費用について、日本が全額を負担すべきと主張した。もし日本が負担に応じなければ駐留米軍は撤退すべきとも述べた。
このニュースは、トランプ氏が大統領に選出された際、日本の安全保障政策に大きな影響を与えるだろうといった形で報道された。だが、仮に要求が現実となっても極端に深刻な問題とはならない。
注意すべきは、日米安保条約の破棄を主張しているわけではないことだ。駐留米軍がいなくなっても日米安保がなくなるわけではない。
逆に駐留米軍を削減する良い機会でもある。それが実現すれば各地の米軍基地問題が解決できる。さらに駐留関連予算が圧縮により、防衛費の余裕を生み出すこともできる。それにより自衛隊戦力の強化も可能となるだろう。
■ 基地問題が解決する
まず、トランプ氏の要求が現実化しても、日本は二者択一を迫られるわけではない。外見上、要求は現在の駐留米軍を前提とし、その経費の全額負担か、あるいは全面撤退をするように見える。
だが、実際にはそれ以外の選択肢もある。例えば、駐留により得られる米側利益分の減額交渉もありえる。また駐留米軍について適正規模への削減といった方策である。特に駐留米軍の削減は、日米同盟にある問題を解消するチャンスとなる。
日米同盟にある最大の問題は沖縄基地問題である。そしてその焦点は普天間-辺野古の海兵隊基地にある。だが、海兵隊駐留は日本にとっては特にメリットではない。むしろ歴史的記憶から沖縄の反発を引き起こす要素であり、駐留はデメリットが大きい。
その点から、要求は日本にとっては「普天間-辺野古の経費負担は負えない」と主張する機会ともなる。
ちなみに米側でも海兵隊の必要性には疑問が投げかけられている。特に沖縄海兵隊は各国とも軍事力を増強した東アジアでは、まずは人道/災害援助でしか使いみちはない。海兵隊の利益により駐留は継続しているが、米国の安全保障サイドとしても一種のお荷物となっている。おそらく容易に撤収させることができる。
また、駐留米軍削減は他の基地問題を解決する端緒となり得る。トランプ氏の「日本防衛のための経費は、日本が全額負うべき」といったロジックであれば「日本防衛に資さない」と横田、三沢の返還も要求できる。
他にも横浜ノースドックや所沢通信施設も返還も要求できる。これらは都市部中心を占拠しているが、米軍はほとんど使っていない。もし返還されれば、交通や防災といった各都市の問題を解決に寄与できるだろう。
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