「バック・トゥ・ザ・コントロール」英国EU離脱派のワンフレーズ・ポリティックス
Japan In-depth / 2016年6月15日 23時0分
岡部伸(産経新聞ロンドン支局長)
「岡部伸(のぶる)の地球読解」
「郵政民営化は改革の本丸」と連呼して2005年の衆議院選挙で圧勝した小泉純一郎元首相の「ワンフレーズ・ポリティックス」をご記憶しておられるだろうか。欧州連合(EU)からの離脱を問う国民投票を23日に控え、英国内で離脱派に「モメンタム(勢い)が出て来た」(英BBC放送)のも、ボリス・ジョンソン前ロンドン市長が主導する離脱派が、移民問題の「シングル・イッシュー」に絞って繰り返す「バック・トゥ・ザ・コントロール(主権を取り戻そう)」のキャッチフレーズが有権者の心に響いてきたからだ。
調査会社ICMが13日発表した世論調査によると、離脱を支持する人は53%で、残留派の47%を6ポイント上回った。タイムズ紙向け調査会社ユーガブの調査では、離脱支持する割合が46%、残留支持は39%で、離脱派が7ポイント上回った。
10日発表の調査会社ORBのインディペンデント紙向け調査では、離脱支持は55%、残留支持は45%となり、離脱支持が10ポイント上回った。離脱派の攻勢に「デイリー・テレグラフ」紙は、「首相官邸はパニック状態に陥っている」と論評する。
離脱派が勢いを増す背景に移民やEUに対する国民の根強い不満があり、「ワンフレーズ・ポリティックス」でその不満をあおる手法が一定の効果を上げている。
残留派は国際通貨基金(IMF)や経済協力開発機構(OECD)やオバマ米大統領や安倍首相らの「支援」を得て離脱の経済リスクを訴え、支持で優勢に立っていた。潮目が変わったのは5月末に発表された統計で昨年の英国への移民流入が30万人を超え、政権が掲げた10万人を大幅に上回り、過去2番目の高い水準だったためだ。
離脱派は「移民問題」に焦点を絞り、「EUに留まれば、移民は抑制できない」と攻勢をかけ、形勢逆転した。選挙をへていないEUの官僚によって規制や政策が決定されることに対する不満を捉えて、「バック・トゥ・ザ・コントロール(主権を取り戻そう)とのキャッチ・フレーズは有権者に分りやすいメッセージとなった。
「テロリストや殺人者が路上にうようよいるのに、我々には追い返せない」「離脱すれば100億ポンド(約1兆5200億円)が自由に使える」。
遊説やテレビ討論でジョンソン前市長は、いつも最後に「主権を取り戻そう」と強調。移民の急増に不満を抱く白人の中間層を中心に支持を集めている。
英国では、東欧からの移民が増え続けることで職を奪われ、住宅不足が広がり、NHSなど社会保障が圧迫されているとの不満が根強い。とりわけ大英帝国時代に郷愁を抱く高齢の白人や労働者にその傾向が強い。「移民・難民を受け入れたくない」のが本音だ。
知識層の不満も根強い。英国を代表する製造業ダイソン創業者のジェームス・ダイソン氏は10日の英紙デーリー・テレグラフに「過去25年、EUの規制に我々の主張が反映されたことは一度もない」「人生でもビジネスでも、最も大切なのは決定権だ。欧州の手に自らを委ねるのは危険だ」と反EUで離脱支持を表明している。
残留派は超党派でメージャー、ブレア、ブラウン元首相が経済や連合王国の分裂の危機に訴えて最後の巻き返しを図っており、国民投票の行方は最後まで予断を許さない状況だ。
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