シリア情勢と米大統領選挙 アレッポを巡る米露土三国の思惑
Japan In-depth / 2016年10月25日 19時0分
山内昌之(東京大学名誉教授・明治大学特任教授)
■アレッポの現況
シリア情勢は、アサド大統領の政府軍によるアレッポ包囲やロシア軍の空爆によって緊迫した様相を呈している。シリア北部アレッポで、ロシアが人道支援名目で実施した一時停戦が10月22日午後に期限を迎え、空爆と戦闘が再開された。
9月30日の世界保健機関(WHO)の発表によれば、北部の中心都市アレッポへの政府軍とロシア軍の空爆により,その1週間で子ども100人を含む338人が死亡したと伝えられる。そのうえ,30人足らずの医者が運営する6病院だけで数十万人の患者を治療しているという惨状には目を覆うほかない。9月23日から10月8日にかけて,包囲中の東アレッポで呻吟する住民は27万人に上り、この期間の死者総数は406人であった。そこには子ども114人,女性56人以上も含まれ、負傷者は1384人(子ども279人,女性110人以上)に及ぶという悲惨さである。
アレッポの帰趨については、アラブ世界のインターネット・メディアでも二つの異なる見方が存在する。『シリア・ダイレクト』(10月6日)によれば、シリア政府軍はアレッポの戦闘が長期に及ぶと予測しており、東アレッポへの地上侵攻の本格化の前に、東アレッポ自体を二つに分断する狙いをもって包囲戦を慎重に進めているというのだ。その目的は,アレッポ郊外の反政府勢力に市内への戦闘員補充や物資補給をさせないことにある。
他方レバノンの『デイリー・スター』(10月6日)は、アレッポが数週間以内に陥落すると見ている。米政府は2つの事後シナリオを想定しているらしい。第一は、分散した戦闘員たちが後方からシリア政府軍やロシア軍に脅威を与える可能性である。第二は、彼らが拠点とするイドリブやホムス,ハマ,ダラアなどの県農村部に人員を集結させ、アメリカやトルコ,ヨルダンやサウジアラビアなどが軍事支援を強化するという展望なのだ。
■トランプの見たシリア情勢
重要なのは、アサドの政府軍がロシアやイランから来た外国人に指揮されているということだ。給与面ではイランの革命防衛隊グッズ(エルサレム)軍団が援助しており、地対空ミサイルや戦闘爆撃機の作戦はロシアが担当している。10月4日,ロシア国防省のコナシェンコフ報道官は,S-300対空ミサイルをタルトゥース海軍基地防衛のために配置すると発言した。匿名の米軍高官はこれが要衝のバニヤス山地に配置されるなら、米軍パイロットも脅威を受けるとCNNに懸念を表明している。そのうえ10日になると、ロシア国防省は、シリアから租借中のタルトゥース基地をロシア軍の恒久的な海軍基地にすると発表した。
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