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福島県双葉郡、医療崩壊の危機

Japan In-depth / 2017年1月11日 7時0分

福島県双葉郡、医療崩壊の危機

上昌広(医療ガバナンス研究所 理事長)


「上昌広と福島県浜通り便り」


福島県双葉郡の復興が危機に瀕している。きっかけは一人の医師の死だ。


12月30日の深夜、高野病院の院長である高野英男氏が亡くなった。享年81才だった。娘で、事務長・理事長を務める高野己保さんは「寝たばこが原因の焼死です」と言う。


高野病院は福島第一原発の南22キロに存在する慢性期病院だ。1980年に高野英男氏が設立した。病床は内科65床、精神科53床で、毎日20名程度の外来患者や、数名の急患を引き受けていた。


この地域を東日本大震災・津波・原発事故が襲った。高野病院は高台にあったため、津波の被害は免れた。しかしながら、この地域は、緊急時避難準備区域に認定された。周囲の病院は避難や閉院を余儀なくされた。高野病院でも、震災前に二人いた常勤医は、高野院長一人となった。この結果、高野病院は双葉郡で操業する唯一の病院となり、高野院長は双葉郡で唯一人の常勤医師となった。


高野院長は孤軍奮闘した。病院の敷地内に住み、数名の非常勤医師とともに診療に従事した。その様子は東京新聞の編集委員である井上能行氏が書いた『福島原発22キロ高野病院奮戦記がんばってるね!じむちょー』(東京新聞出版局)に詳しい。


その高野院長が亡くなった。娘である高野己保理事長は途方にくれた。彼女は医師ではない。早急に院長を務めてくれる常勤医を探さねばならないからだ。私にも相談があった。


残された時間も多くはない。原発事故以降、広野町の住民は5400人から3000人に減った。高野病院の患者も減少した。財政難の我が国で、診療報酬は下がる一方だ。一方、原発周辺の病院での勤務を希望する医師は少ない。非常勤医師の調達コストは高騰した。高野病院は内部留保をすり減らしており、このままでは数ヶ月で経営破綻する。2017年元旦には、広野町の遠藤智町長に対して「患者・職員を助けて下さい。私はどうなっても構いません。病院と敷地を寄附するつもりです」と伝えた。


遠藤町長も事態の深刻さを理解し、福島県および周辺の自治体に支援を求めた。南相馬市立総合病院は即座に協力を表明し、外科医である尾崎章彦医師を中心に「高野病院を支援する会」を結成した。大勢の若手医師がボランティアで診療に従事した。


行政も動いた。6日には、福島県・広野町・高野病院などで会議を開いた。翌日の福島民友は一面トップで「医師派遣や財政支援 高野病院診療体制維持へ県 福医大と連携」と報じた。


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