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「こち亀」は公務員という絶対安全地帯で悪さをする「子供大人」の物語。漫画家・山田玲司が「こち亀」を語る

ニコニコニュース / 2016年9月22日 17時32分

ニコニコニュース

漫画家の山田玲司が話題のニュースを斬る「山田玲司のニコ論壇時評」、9月14日に第一回の放送を行いました。

話題は最終回を迎える直前の「こち亀」(9月17日発売の少年ジャンプに最終回が掲載)に。こち亀、そして両津勘吉とはいったい何だったのか...

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■時代はおっさんが来ている?

乙君:
 終了間近の「こち亀」最終回どうなる?待ってました。すごい漫画がついに終わりますね。こち亀って俺が生まれたときからやってて、もう絶対に終わらないと思ってた。

しみちゃん:
 うん、終わらないと思ってた。

山田:
 ゴルゴ的な感じで?

乙君: 
 (ゴルゴ)もそうだしドラえもんとか、国民的って言ったら変ですけど。今、スピリッツで(山田玲司さんの)CICADAが連載中なんですけど、これ150年後の世界で漫画が禁止されて・・・

山田:
 漫画が禁止された世界の話ね。

乙君:
 そこに検閲官みたいな漫画焼く奴がいる。

山田:
 漫画を焼いちゃうんですよ。

乙君:
 すごいお宝、骨董品のように隠し持っている色んな漫画を焼いちゃうんですよ。近未来SFのお話で、CICADAの主人公がすごい若い男の子なんですけど、最初ネームの段階では主人公は40代のおっさんだったんですよね。今度、この番組で『ブレイキング・バッド』の回をやろうと思っているんですが、とにかく海外、アメリカではおっさんが活躍するんですよ。

山田:
 僕の番組もおっさんが活躍してます。

乙君:
 そう、時代はおっさんが来ている。

山田:
 おっさんの時代です。

乙君:
 っていうのを聞いて、俺もたしかにそうだなと。『ダイ・ハード』もそうだし。

山田:
 あなた、おっさん大好きだよね。

乙君:
 おっさんが活躍するのが好きなんですよ、ハードボイルドで悲しみがあるから。

山田:
 おっさんが紅茶淹れるのも好きだよね。

乙君:
 大好きですよ(紅茶を入れる真似をしながら)。で、日本にはおっさんが活躍する作品がないと思ったら、こち亀があったじゃん、と。

山田:
 そうなんですよ。少年誌なのに中年男がね。

■両さんは70年代の日本におけるユートピアの1つの形

乙君:
 良く考えたらすごくないですか?少年ジャンプにおっさんが毎回読み切りのギャグで。

山田:
 すごいんだよ。俺が考えるこち亀のルーツって、おそらく赤塚不二夫のおまわりさん。

乙君:
 え、それ?

山田:
 あとルパン三世の銭形警部。そのまんまじゃないけど、あれって権力を茶化してたんだよ。権力を茶化すのが60年代。団塊世代の学生の運動期に対立するのは権力側だったんで、そういう対立の中で彼らを茶化すっていう文化があったわけ。

 こち亀はそれが落ち着いた70年代に始まっている漫画なんで、要するにそこで起こったのは権力側との和解なんだよね。だから庶民的なおまわりさんっていうのがありになって、それから『太陽にほえろ』の時代もくるわけ。「昔は悪やってたんだけど、刑事になったよ、母ちゃん」みたいな。

山田:
 で、これまた面白いんだけど、両津って神だからね。

乙君:
 神?

山田:
 公務員だから。

乙君:
 そういうことね。

山田:
 公務員という絶対安全地帯で悪さをする「子供大人」っていうユートピアなんだよね。

乙君:
 悪い神様みたいなものですな。ちょっと悪戯しちゃうぜみたいな。

山田:
 不良っていうものは親がいて楯突く。要するに本物のアウトサイダーにはならない。で、不良とか言ってるくせに学校に行くんだよ。不良とか言いながら学歴にしがみついてる。そういう枠の中で大人に意気がるみたいなスタイルが70年代に流行る、これがある種のユートピアなんだよね。

 だから学生運動の後、何にも戦うものがなくなったときに、「先生むかつくよな」という時代になってくる。そこからスタートする両津勘吉っていうのは安全地帯で好き勝手やる、日本っていう一つのユートピアの形なんだよ。

 そして、両津さんがやっていることって、だいたい「新製品の○○が出たらしいぞ」っていう、基本的に何かの新しい消費。

乙君:
 時代の匂いとか、すごい柔軟に吸収して。

山田:
 「もう買ってありますよ」「くそー」みたいな、そういうテンプレあるじゃん。あのテンプレに新製品を入れるだけでよかったから、それに時代が対応できるわけ。そしたら「iPodっていうのがあるらしいぞ、中川」ってできるじゃん。それってある意味ユートピアなんだよ。しかも、両さんって、「結婚しない、恋愛しない、責任取らない」じゃん。

乙君:
 そう、責任とらないんだよ。だからあの人、男の憧れなんですよ。これって寅さんから来てるんだなって思って。

山田:
 ただ、さすらわないんですよ。

乙君:
 そう、定住型・寅さん!

■こち亀はジャンプ読者の夢の終着点だった

山田:
 しかも寅さんは恋愛しますからね。失恋もしますから。そういったことをしないで、両さんは何をしているかっていうと消費活動なんですよ。

乙君:
 新しいおもちゃでずっと遊んでいるんですよ。子供の寅さん。

山田:
 だから責任を取らずに趣味に生きる夢、快楽っていうのが、俺たちの夢だったんだよ。それをジャンプが魔法だ、剣だ、バスケだやって、最後に夢(こち亀)に戻る。いいおっさんになった自分っていうのを...

乙君:
 結局、両津はジャンプのゴールだったんだ。

山田:
 色んな少年活劇があって...

乙君:
 あったけど、いろんな漫画が出てきて...

山田:
 責任取らないおっさんでいいんだよーっていう魔法がかかるんですよね。

乙君:
 なるほど、超面白い!

山田:
 これは中年の夢ですよ。釣りバカ日誌とかもそうなんだけどさ、そういうのがあったんだな。

乙君:
 うんうん。

山田:
 今このタイミングでこち亀が終わるっていうのは何かを象徴しているよね。もう俺たちは新製品では楽しめなくなっているっていうか、もう新製品っていうもので人生を満たすってことが終わったんじゃないかって。

 実はとっくに終わっていたんじゃないか。終わっていたんだけど、「わーい、新しいおもちゃだ」っていう喜びだけにすがって生きていたっていう。

乙君:
 玲司さんの中では、こち亀って新製品、時代と寝るっていうか・・・

山田:
 全部そうとは言っていません。こち亀は下町人情話なので、その角度だけでは斬っていません。だけど、俺にはその側面から見えるってこと。タモリさんが昼からいなくなるっていう終わらない日常の終わりだったわけで、それとすごくリンクしているんだけど、今の若い人に言わせると「おっさんたちの昭和が終わっただけで関係ねーし」っていう。

乙君:
 まぁ、たしかにね。

山田:
 でもそれって新しい豊かさを探す時代の始まりなんで、俺は別にいいかなと思ってる。

乙君:
 秋本先生も漫画を描くのは止めない、描きたいことはあるからって言っていて。どういうふうに終わらせるかって思ったときに、両津はお祭り好きだから40周年200巻でバーンと派手に終わろうって感じで、引き際としては相応しかったじゃないかって。

山田:
 そう考えると、日本が豊かだった時代の象徴の漫画だなとも読まれるし、歴史的にガジェットの進化みたいなもののいい資料になるっていうのもあるのもあるかな。いろんな価値が残ってはいくだろうなと思います。

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