「東京五輪」結局、どこが儲けて、どこが損をするのか
プレジデントオンライン / 2016年12月5日 9時15分
■加速する一極集中地方波及は未知数
みずほ総合研究所は2014年12月に「2020東京オリンピック開催の経済効果は30兆円規模に」というリポートを発表しました。そこでは経済効果を2つに分けて試算しています。累計約28.9兆円の経済効果のうち、大会運営費や観戦客による消費支出などの「直接効果」が1.3兆円、首都圏インフラ整備や観光需要の増大などの「付随効果」が27.7兆円です。つまり五輪開催に伴う経済効果の大半は、直接効果ではなく付随効果として表れます。
経済効果は日本の実質GDPベースで算出しています。リポートの発表時に比べて日本経済の成長率がゆるやかなため、実質GDPの最終的な着地点は小さくなると考えられます。発表時は2020年度の実質GDPが600兆円弱との想定でしたが、現在は570兆円強とみています。ただ、下振れしたのは五輪以外の「アベノミクス効果」の部分です。五輪効果だけみると、上振れした要素もあり、推計は変えていません。
上振れの大きな要因は「観光事業」です。円安やビザ緩和などの影響で、昨年の訪日外客数は前の年より47%以上も多い1973万人でした。リポート発表時の想定では20年までに2000万人へと増えるはずでしたが、ほぼ達成され、現在の政府目標は「20年までに年間4000万人」と倍増しています。宿泊業、運輸業、小売業などがその恩恵を受けるでしょう。
また試算で、最も金額が大きいのが「都市インフラ整備・首都圏オリンピック関連業種の投資加速・耐震化促進」です。15.2兆円の経済効果として、「首都高速道路の老朽化対策」や「羽田空港の新滑走路」などを見込んでいます。
一方で、東京五輪の「マイナス効果」にも注意が必要です。
東京五輪によって都市インフラの整備が前倒しされれば、20年以降の建設投資は冷え込む恐れがあります。また、首都圏周辺の再開発は2020年代前半にかけて複数の大型案件が進行していますが、オフィスビルだけでなくホテル・商業施設と組み合わせた「街」としての魅力向上が実現できなければ、需給の緩みから賃料水準の低下が生じることが懸念されます。
開催地である東京以外にはメリットが薄いことも、リスクのひとつです。建設業では全国的に慢性的な人手不足です。東京での建設投資に人手を取られれば、地方でのインフラ整備が遅れる恐れがあります。
訪日客の急激な増加もリスクになります。東京のホテル稼働率は昨年8割を超えるなどほぼ満室状態で、「東京一極集中」の緩和が課題です。ただし、地方に外国人観光客を招くのは簡単ではありません。この勢いが続くとは限らず、地方では投資の回収が困難になる事例も出てくるでしょう。
宿泊施設不足を解消するため、政府は今年4月、「民泊」の広がりにあわせた法改正を行いました。一連の対応は評価できますが、ビジネスが動いてから政府が動く、というスピード感では、まだ遅いようにも思います。
シドニーやバルセロナでは五輪後の観光振興を見据えた投資を行うことで、観光地としての地位を確立しました。五輪後、東京をどのような都市として世界に売り込むのか。その発想が不可欠だと思います。
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みずほ総合研究所 主任エコノミスト。1983年、東京都生まれ。2006年東京大学経済学部卒業、みずほ総合研究所入社。07年から2年間内閣府へ出向。現在は日本経済全般の分析取りまとめを担当。
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(みずほ総合研究所 主任エコノミスト 徳田 秀信 呉 承鎬=構成)
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