トランプの「トヨタ叩き」意外な狙いとは?
プレジデントオンライン / 2017年1月21日 11時15分
■問題視したのは相手国の“消費税”
日本時間で1月21日未明、正式に米国大統領に就任したドナルド・トランプ氏だが、ここ40年ほど歴代の次期大統領が当選後3日程度で初の記者会見を行う中、当初予定された12月15日を直前にキャンセルし、大幅に遅れて1月11日の開催とした。何かと異例続きの大統領交代劇だが、会見の内容はその直前にリークされた、ロシアがトランプ氏のスキャンダルをつかんでいるとの「不名誉な情報」に終始した。
その中で「日本」という単語が出てきたのは2カ所だけに留まる。1つは利益相反についての話題をすり替えるべく、対米貿易収支の赤字問題が引き合いに出された際であり、2カ所目はプーチン大統領率いるロシアと自身の大統領選での関わりについて尋ねられ、ハッキングを言うなら中国の方が深刻であるとして南沙諸島の問題にまで話を広げた際となる。内政問題に突き当たると外政に目を向けるというありふれた戦略がトランプ氏の趣向のようで、今後も折に触れ唐突に日本が槍玉にあがる可能性は高い。
槍玉に挙がるといえば、記者会見の前になるが、トランプ氏が自身のツィッターでトヨタのメキシコ工場建設について異を唱え、「米国に工場を建てるか、高い関税(国境税)を払うかの二者選択以外にあり得ない」と名指しで批判した投稿が話題を呼んだ。
トヨタ自動車の豊田章男社長は、米国での13万6000人の雇用実績や、過去60年間で220億ドル(2兆5000億円超)の投資を強調したうえで、今後5年間でさらに100億ドル(1兆円超)を投じる計画を公表。「メキシコ新工場の開設が米国内での生産や雇用減少に繋がることはない」とし、同社広報担当も「トランプ政権と協力することを待ち望んでいる」との立場を表明しているが、トランプ氏の指摘は一企業へのバッシングだけを目的としたものとは違うし、米国内の生産減・雇用減だけの話でもなかろう。
ツィートが示すように、海外からの製品流入の際の関税こそが最大の問題とも言えよう。トランプ氏が選挙期間中から問題視していたのは、メキシコの付加価値税(日本の消費税に相当)の関税機能だ。
■米国は付加価値税導入を見送ってきた
これはトランプ氏独自の発想というわけではなく、ことの経緯は大統領諮問委員会である企業課税特別委員会の1969年12月1日付の報告書までさかのぼる。付加価値税は輸出製品へのリベート(販売奨励金)であり、輸入品に課せられた相殺関税に相当する。歪な関税機能は自由貿易に反すると指摘し、米国は連邦国家として付加価値税導入を見送ってきた(日本を疲弊させる「消費税」を廃止せよ http://president.jp/articles/-/14975?page=4 参照 )。
選挙中のトランプ氏の発言として、「メキシコには付加価値税があるのに対して、米国にはない、米国製品はメキシコで16%課税されるがメキシコ製品が米国で課税されることはない、これは長い間放置されてきた欠陥協定である」がある。
“Let me give you the example of Mexico. They have a VAT tax. We're on a different system. When we sell into Mexico, there's a tax. When they sell in ? automatic, 16 percent, approximately. When they sell into us, there's no tax. It's a defective agreement. It's been defective for a long time, many years, but the politicians haven't done anything about it.”
一部の有識者は、こうした貿易に対して付加価値税はニュートラルであり、トランプ氏の指摘は事実無根と切り捨てていたが、税制に疎いのは、むしろそうした指摘をする有識者の方だろう。むろん、トランプ氏が税制に精通しているとは考えにくく、関税と付加価値税を結びつける発想はピーター・ナバロ氏(トランプ政権下で新設される「国家通商会議」のトップとして貿易政策を担当)とウィルバー・ロス氏(商務長官への起用が見込まれている)によるものだろう。
選挙期間中、両氏はインタビューの中で、「米国の貿易相手国は付加価値税(消費税)に依存しており、WTOでは輸出製品へのリベートを許可している。他国の輸出業者のように米国企業はリベートを受け取ることができない」と発言、WTO条約そのものの不公平な貿易慣行について指摘していた。
■トランプ流スキームか、付加価値税か
生産拠点を海外へ移した企業への課税強化の方法としては「国境税」が取り沙汰されているが、今のところ関税そのものの引き上げではなく、法人税改革を目指すのではないかとの見方が多い。
具体的には米国の輸入企業には法人税アップを課し、輸出企業の税を軽減する仕組みとされるが、これはまさにトランプ氏、ナバロ氏、ロス氏が不公平と問題視する付加価値税、すなわち、輸出企業にはリベート、輸入品には課税と同様のスキームとなる。
こうした「輸出補助金」になりうる制度は、元来WTO(前身のGATTでも)では、輸出企業に有利な不公平税制として禁止されているのだが、例外規定として、「間接税である付加価値税だけは還付可能」との例外規定が、無理矢理1970年前後にフランス主導で追加された経緯がある。
トランプ政権の戦略として、米国の法人税改革がWTO違反というなら、世界の140の国と地域で採用している付加価値税は全てWTO違反となるとの論法だろう。
(1)付加価値税に付随する輸出還付制度が違反となれば、WTOの規定そのものの見直しがされ、米国以外の輸出企業への還付制度の廃止によって米国輸出企業は競争力を確保できる。
(2)WTO違反には相当しないとなれば、米国の法人税改革ももれなくWTO規定に抵触しないとして認められ、米国輸出企業には減税が可能。
米国企業からしてみれば、(1)WTOの付加価値税改革、(2)米国の法人税改革、いずれに転んでも悪い話ではない。
なお、EUは昨年公表した付加価値税の恒久改革にて、EU域内の輸出還付制度は今後廃止としており、方向としては現状話題になっている(2)よりも(1)の方が現実的に取り組みやすい状況だ。
本来的な意味において、米国企業が国際競争力を取り戻すことを主眼におくなら、(1)の輸出還付制度の廃止が賢明だが、トランプ政権が真の国民経済目線となるのか、ここはお手並み拝見としたい。
(大阪経済大学経営学部客員教授 岩本 沙弓 宇佐見利明=撮影)
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