なぜ「会社で調整力」を発揮したらダメなのか
プレジデントオンライン / 2017年2月22日 9時15分
■問題の隠蔽や先送りは何も解決しない
日本では昔から、ビジネスの世界において「調整型人材」が評価される風土が根強くあります。社内調整にそつがないということが優秀だというわけです。関係各所に根回しし、意見や要望を取りまとめ、なるべく波風の立たないように収める。そして、それが組織には一番と思われてきました。
確かに、企業や経済の安定期ならモグラたたきをしているだけで通るかもしれません。しかし、今のような時代にはそうはいきません。私は、必要なときには、荒立ててでも事を顕在化するほうがいいと思っています。というのも、世の中のあらゆる物事は、混乱を乗り越えて初めてより高いレベルに達するからにほかなりません。
例えば、ある食品会社で、営業部門の社員が「納入先の飲食店における消費期限の扱いに問題があるのでは」と気づき、上司の課長に報告したとします。けれども、その課長は「事態が大きくならないうちに自分の課だけで内密に処理してしまおう」と考え、上層部には知らせず、その飲食店への指導だけですませてしまったのです。
ある意味でこれは、管理職が「調整力」を発揮している典型的なケースかもしれません。一見すると、職場は平穏を保ち、納入先もこれまで通りの関係ということになります。ところが、それこそが大きな火種を抱えることにつながるのです。問題の隠蔽や先送りは何の解決にもならない。いつか、同じことが、より大きな規模で起こることは十二分に予測されます。
実際、この会社は後に、より大きな問題を引き起こしてしまいました。法令違反は会社の命取りになりかねません。この課長が消費期限の問題の重要性を認識し、上司に報告、相談し、他の取引先でも同じことが起きていないか調べ、手を打っていれば避けられたのではないでしょうか。
■会社には「良い調整」と「悪い調整」がある
会社が健全に進んでいくためには、意見のぶつかり合いはあって当然です。つまり、本当に必要なのは調整ではなく、混乱だということです。そして、それをいかに上手にマネジメントするかということです。体を鍛えるトレーニングと同じです。それなりの負荷をかけるからこそ体力や筋力がアップしていきます。
混乱と聞くとマイナスのイメージを持つかもしれませんが、部内や社員同士が丁々発止の議論をすることはプラスのエネルギーを生み出すのです。1つの目標に向かって全員が一丸となって取り組むには、そうしたプロセスは欠かせません。その意味では「良い調整」と「悪い調整」がある。調整が隠ぺいにつながったとしたら後者です。
率直な意見をぶつけ合えば、自分の考え方が間違っていることに気づくかもしれません。その場合は、自分のメンツなどにこだわることなく撤回することも必要でしょう。胸襟を開いて話し合えば、お互いを理解するきっかけにもなります。相手の正直な気持ちや素顔を知るからこそ、そこに信頼も醸成されるのです。
このように、時代によって望まれる人材像は明らかに変わってきています。例えば、三菱自動車の燃費データ不正のような深刻なコンプライアンス問題が相次ぐ昨今の日本行で求められているのは、混乱や対立をただ抑え込むのではなく、それをマネジメントし、そこから新しい未来を創造する道を見つけることのできるリーダーです。
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1986年、日本企業の風土・体質改革を支援するスコラ・コンサルトを設立。これまでに延べ800社以上を支援し、文化や風土といった人のありようの面から企業変革に取り組む「プロセスデザイン」という手法を結実させた。著者に『なぜ会社は変われないのか』『なぜ社員はやる気をなくしているのか』『成果を出す会社はどう考え動くのか』『日本起業の組織風土改革』など多数。近著に『「できる人」が会社を滅ぼす』がある。
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(スコラ・コンサルト プロセスデザイナー代表 柴田 昌治 構成=岡村繁雄)
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