「想定外」では済まされない豊洲市場の土壌汚染―仲卸を営む渡部区議からの寄稿
政治山 / 2016年8月23日 11時50分
築地市場が移転し、豊洲市場として開場するのは11月7日の予定。すでに3カ月を切っていますが、多くの問題点が指摘され、未だに解決策を見いだせないまま、小池百合子都知事が決断を下そうとしています。そこで、地元である中央区の議員として、また自ら築地市場の仲卸を営んできた当事者の1人として、豊洲への移転に警鐘を鳴らし続ける渡部恵子区議にご寄稿いただきました。
80年超の歴史に幕を下ろす築地市場
住民と利用者の視点から、豊洲移転は何が問題なのか
昭和10年開場の築地市場が、豊洲市場へ移転するまで、カウントダウンが始まっています。しかしながら、今、豊洲市場の問題が再びクローズアップされ始めています。その理由は、一店舗が狭すぎて包丁が引けないなど様々ありますが、一番大切な問題である土壌汚染工事を終えたはずの豊洲市場で、再び有害物質が計測されたことが原因です。
東京の台所・築地市場の移転は、利用者にとって何が問題なのか、これからお話しいたします。
狭さも課題の豊洲新市場
土壌汚染工事終了後も有害物質が検出
そもそも豊洲市場が建設されている土地は、1956年から88年まで東京ガスが石炭から都市ガス製造を行う工場跡地だったため、その土地と地下水を汚染してしまいました。発がん性があるベンゼンは43,000倍、シアン化合物(青酸カリ)は860倍など、環境基準値を大きく上回る汚染された土壌がそのまま残されました。当時、東京ガスは「この土地は売れない」と断りましたが、石原都知事は、50数億円で購入しました。さらに東京都は858億円をかけ、土壌汚染対策工事に着手。
ところが、本年2016年4月から5月にかけて行われた調査結果を、東京都庁で6月28日「土壌汚染対策工事と地下水管理に関する協議会」で報告しました。
<施設内空気の測定結果(抜粋)>
・ベンゼン 青果棟にて2カ所 0.0019ミリグラム/1立方メートル
・ベンゼン 水産仲卸棟にて 0.0012ミリグラム/1立方メートル
・ベンゼン 水産卸棟にて 0.0006ミリグラム/1立方メートル
「東京の台所」と謳われる中央市場で、本来検出されてはならない化学物質が検出されていることが、まず大きな問題です。これまで、東京都は「汚染工事は終了した」と報告していたにもかかわらず、青果棟では環境基準値の6割、水産仲卸棟では同値の4割に値する発がん性物質ベンゼンが検出されたのです。
不十分な調査、東日本大震災の“噴砂”も影響か
私たち仲卸も、土壌汚染は完了したという都の発表を信じていましたが、わずかでも検出されたことで汚染物質は除去しきれていなかったのではないか?という疑いが出てきました。事態はフェーズが変わったと捉えざるを得ません。しかも、この広大な土地を検査する際、土地を区分けして調査していたはずなのですが、333区画で土壌汚染調査をしていなかったことも報告されています。
3・11の東日本大震災の時、この土地は120カ所液状化し、噴砂しました。つまり、地面が大きく揺れたために、もともと汚染していた箇所が移動して変わってしまった疑いが高いと専門家が指摘し、この点を東京都も否定していません。
しかし、土壌汚染工事を施した場所は、大震災以前の場所。ですから、333区画で汚染調査をしなかったことに加え、大震災で汚染箇所がずれた可能性が高い333区画が集中する青果棟で、今回、基準値の6割ものベンゼンが検出されたことは、因果関係があると考えられます。
床下の空洞は汚染の数値を下げるため?
先の専門家の話では、低気圧や高温の気象時に、化合物は揮発しやすいと指摘しています。そのための対策なのでしょうか、室内にベンゼンの計測器が置いてあるということを、知事が豊洲市場視察時に、マスコミを通して発言しました。私たちは、計測器について、知り得ませんでした。
水産仲卸棟の床下は1.8メートルも空洞になっています。なぜ、水産仲卸棟だけ、これだけ空洞にしているのか?東京都は公式で否定していますが、「土壌汚染のためです」と職員が説明しているのを数名の仲卸が耳にしています。
市場内の運搬に用いられるターレット(青島教材社ホームページより)
空洞化が生んだ非現実的な耐荷重制限
さらに、床下の空洞は大きな問題を含んでおり、1平方メートル当たり700キロという耐荷重制限があるのです。市場内を走るターレットという荷車がありますが、その車自体でおよそ1トンあり、これに200キロ台のマグロを3~4頭乗せれば、軽く耐荷重を超えてしまいます。また、水槽に活魚を入れる特殊物業界の人たちにも、水槽の水の高さ制限が通達されています。
土壌汚染が潜んでいるゆえに床を空洞化し、このことによって耐荷重制限が生じているわけですが、果たして安全に働ける場所と言えるのでしょうか?仲卸の皆さんは、「そのうち床が抜けて、大事故になるかもしれない」という不安を抱えています。
汚染の可能性の高い海水で、魚を泳がせることに
東京都条例の市場法第10条2項は、中央市場を移転する条件として、次のように規定しております。
「当該申請に関わる卸売市場その開設における生鮮食料品等の卸売りの中核拠点として適切な場所に開設されかつ相当の規模の施設を有すること」
揮発したベンゼンを検出した仲卸棟の空気を吸って、人を働かせて良いのでしょうか。買い出しにいらっしゃるお客様にとっても、同様の問題が出てきます。
他にも、汚染が一番ひどかったと言われる場所の海水をくみ上げる問題が出ています。私たちが朝、セリ落とした鮮魚やマグロは、夕方には香港やシンガポールのお客様に届きます。ベンゼンなど化学物質が入ってしまったかもしれない汚染水で泳いだ魚は脂臭くなるそうです。そもそも、汚染の可能性が高い海水で泳がした魚をお客様に届けて安心安全と言えるのか?大いに疑問があります。
市場の信頼は、安全があってこそ
築地から豊洲へ移転することは、市場関係者も致し方が無いと納得しています。しかしながら、移転した先にこのような危険性があるとしたら、市場の信頼は失墜してしまうでしょう。築地市場は、今や世界的なブランドとなりました。私たちも誇りを持って、より良い生鮮品をお客様にお届けすることを生業としております。
今、東京都は、豊洲市場について安全宣言はしておらず、何の見解も示していません。環境基準値を下回るからといって、6割もの発がん性物質のベンゼンが検出されても、大丈夫だと安全宣言できるのか?あるいは、徹底的に有害物質を除去し、一切検出されないところまで土壌汚染対策を講じることができるのか?
リオデジャネイロオリンピック閉会後、帰国してから考えると見解を示す小池都知事の判断が、大変気になるところです。
東京の台所として、世界にアピールできる新市場を
「想定外でした」。担当者が軽々に発言するこの言葉。豊洲市場へ移転した後、新たな汚染物質が検出されたら、「想定外でした」では済まされません。豊洲市場に集荷された生鮮品の信用が完全に失われます。そうなれば、ここを生業とする多くの企業が、倒産を余儀なくされます。
東京の台所・豊洲市場から出される生鮮品を購入する一般家庭の消費者の皆さまへ、そしてホテルやレストラン、料理屋を営む飲食業に携わる方々へ、「あなたのお皿の野菜、お魚、フルーツは安全安心だ」と言えるのか、また4年後の2020年、東京オリンピック・パラリンピック大会時、「新しい東京の台所」として、安心安全な食材を確保する豊洲市場として、国際社会に応えられるのか、今、小池都知事の判断に委ねられています。
<中央区議会議員 渡部恵子>
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