悲願の金メダルに輝いたレスリング男子フリースタイル57キロ級、樋口黎選手(28)=ミキハウス=はリオデジャネイロ五輪で優勝を逃し、東京五輪は出場できずに終わった。この3年、「圧倒的に勝つ」ための鍛錬を重ねてきた。
8年前のリオ五輪の表彰台。銀メダルを獲得した当時日体大3年の樋口選手に笑みはなかった。大学時代から指導するコーチの湯元健一さん(39)は「負けず嫌いな性格。練習でも負けると一人で怒っている」と話す。樋口選手が東京五輪での雪辱を誓うのは当然だった。
しかし、リオ五輪後は不振が続いた。苦手とした減量に手を焼き、2021年4月の東京五輪アジア予選は計量オーバーで失格。その後の代表決定戦も敗れ、出場を逃した。これで五輪はなくなったか―。湯元さんは正直、そう感じた。
だが、樋口選手に諦める様子はみじんもなかった。人一倍スパーリングに取り組み、特に今大会フリースタイル65キロ級に出場する清岡幸大郎選手(23)とは何十番も繰り返す。清岡選手は大学の後輩だが、樋口選手は「技や練習への姿勢など、僕が吸収する部分の方がはるかに多い」と進んでぶつかっていった。
苦手の減量は、ボディービルダーの減量動画を見たり、論文を読んだりして研究を重ね、「自分の身体を実験台にできるので楽しい」と笑う。そんな樋口選手に湯元さんは「圧倒的に勝つ気持ちを持て」と言い続けてきたという。
今大会決勝、苦戦の末に勝利をつかみ取った樋口選手。セコンドで見守った湯元さんと抱き合い、堂々とマットで日の丸を掲げた。表彰台の真ん中に立つと、8年前とは違ってほほ笑みを浮かべ、力強く拳を突き上げた。
[時事通信社]