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家族や地域の絆支えに=辞めたいと思ったことも―日本人僧侶広中さん・マウイ山火事1年

時事通信 2024年8月10日 18時5分

 【ラハイナ(米ハワイ州)時事】米ハワイ州マウイ島の西部ラハイナを襲った山火事から8日で1年。本堂などを焼かれたラハイナ本願寺(浄土真宗本願寺派)の日本人僧侶、広中愛さん(47)が9日、取材に応じた。僧侶を辞めたいと思ったこともあったが、家族や地域住民との絆に支えられ、なんとか一歩踏み出そうとしている。

 9日午前、ラハイナ本願寺の焼け跡。広中さんは本堂の本尊があった場所で腰を落とし、「南無阿弥陀仏」と唱えた。本尊の灰を新たに迎える本尊に組み込みたかったが、有害物質を含むため諦めた。焼け残った柱を再建時に使うことも考えたが、高熱でもろくなっており、これも難しい。今は再建イメージを「考えないようにしている。流れに任せる」と話す。

 妻と子ども4人の家族の写真、大事にしていたゴルフクラブなど、思い出の品々も失われた。広中さんはこの日、檀家(だんか)との新年会に使ったビンゴゲームの機器が燃え残っているのを見つけ、猛火を逃れた納骨堂に運んだ。

 広中さんは昨年11月からラハイナ本願寺との兼職で島北部のカフルイ本願寺に勤めている。環境が変わり、時間の経過とともに山火事のことを考える時間も減ったが、「考える時の負担は変わらない。そう簡単に区切れるものじゃない」。毎週日曜日の法話も、被災していないカフルイの人々を前にして山火事に毎回触れるわけにはいかない。「自分のことで精いっぱい」で、笑みを絶やさないように努めることが次第に苦しくなった。

 ただ、長男(17)やチームメート、コーチが地元ラハイナルナ高校でアメリカンフットボールに打ち込む姿に奮い立たされた。焼けたラハイナ本願寺に隣り合う幼稚園の先生から、焼け残った親鸞聖人の銅像のためにレイが贈られた。広中さんが出席した8日の追悼式典では、ラハイナ本願寺の近所の住民が親身になって心配してくれた。「この寺が持つコミュニティーとのつながりを感じた」という広中さんは、「追悼式典を起点に2年目を頑張る」と静かに語った。 

[時事通信社]

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