【ワシントン時事】11月5日投開票の米大統領選を前に、投票資格や手続きを巡る訴訟が米各地で相次いでいる。多くは共和党やトランプ前大統領の支持勢力によるもので、「不正阻止」を大義名分に掲げるが、集計が遅れたり、選挙結果の確定に疑義を生じさせたりするなどの混乱をもたらす恐れがある。
◇「常識の勝利」
連邦最高裁は10月30日、南部バージニア州の訴えを認め、市民権を持たない者が有権者登録をしていた場合、抹消させる暫定命令を出した。ヤンキン知事(共和)は「常識と選挙の公正性の勝利だ」と歓迎。これに対し公民権団体は、登録の際に使った運転免許証の取得時は市民権がなかったが、その後に得た人など、本来なら投票権を持つ人も排除されかねないと懸念を示す。
共和党は今年、投票制度の「欠陥」を取り上げた訴訟に積極的に関わっている。党全国委員会は20州で80超の訴えを起こした。民主党支持層が多く利用し、近年の選挙で増加している郵便投票について、投開票日以降に選管へ届いた分を集計しないよう求めるなどしている。
◇計画的に準備
こうした動きは、2020年大統領選でトランプ氏の陣営が敗北を覆そうとした試みの延長線上にある。当時、各地で起こした数々の訴訟は失敗に終わったが、今回は選挙前から計画的に準備。トランプ氏も演説などで「民主党は選挙を盗む」と、根拠の乏しい主張を続けている。
これに対しニューヨーク大ブレナン司法センターは「米国の選挙制度は十分に公正で安全だ」と強調。選挙制度への信頼を揺さぶるのが共和党側の狙いだと指摘する。
前回選挙では、敗北を認めないトランプ氏の支持者らが連邦議会を襲撃した。選挙への信頼低下は政権の正統性に対する国民の疑念を広げ、結果次第で前回と同様の事態を招く危険性をはらむ。
◇「ケネディ票」で波乱も
一方、最高裁は29日、大統領選から撤退した無所属ロバート・ケネディ・ジュニア氏が、自身の名前を投票用紙から削除するよう求めた訴えを退けた。これにより激戦7州のうちウィスコンシン、ミシガンの中西部2州では、同氏の名前が残ることになった。
ケネディ氏は故ケネディ元大統領のおいで知名度が高く、トランプ氏とハリス副大統領の双方に批判的な有権者から、ある程度の票を集めるとも考えられていた。撤退後はトランプ氏への支持を表明したケネディ氏の得票が、激戦州の結果を左右する波乱要因となる可能性もある。
[時事通信社]