「核兵器のもたらす惨状に目を向けるきっかけになれば」。長崎の爆心地近くで生まれ育った作家で、長崎原爆資料館元館長の青来有一さん(65)=長崎市=は、日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)へのノーベル平和賞授賞が決まったことに「いま一度、被爆者の体験を聞き、核抑止論を見直すべきだ」と考えている。
青来さんは、同市の「浦上地区」と呼ばれる爆心地周辺で育ち、両親共に被爆者だ。短編小説集「爆心」など長崎を舞台にした著作が多く、「土地と切り離せない記憶」として原爆を題材にしてきた。「被爆2世だからではなく、今も続く普遍性のある問題として書いてきた」と話す。
来年に控えた被爆80年ではなく、今年授賞が決まったことについては、「ロシアなどで核が戦略の一つとして扱われるようになった。世界に警告を発する意味もあるのでは」と分析する。
資料館長時代、日本被団協の代表委員だった山口仙二さんや谷口稜曄さんらと接してきた。亡くなった2人がけん引した運動を幼い頃から見てきたこともあり、「無理解もあった中、繰り返し地道に語り続け、『核は使ってはいけない』というタブー意識をつくり出してきた。人間として尊敬する」と受賞決定を喜ぶ。
市職員として働きながら小説家デビューし、2010年から約8年4カ月にわたって資料館長を務めた。館内では神妙な面持ちで展示物に見入っていた各国要人や政治家が、核抑止論や核による威嚇を表明するたび、「何を見ていたんだ」と怒りを覚えたという。
授賞決定が「核が使われた時の悲惨さにもう一度目を向け、核抑止論を見直すきっかけになれば」と訴える。「使われた側の痛みを、次の世代に伝えなくてはいけない」との思いを強めている。
[時事通信社]