ヒトの人工多能性幹細胞(iPS細胞)を実験容器内の培養液に浮遊させた状態で作り出し、性質を長期間維持したまま大量に増やす技術を開発したと、理化学研究所と京都大iPS細胞研究財団、大手化学企業カネカの研究チームが22日までに英科学誌イーライフに発表した。自動装置で大量生産し、コストを下げることが可能となり、再生医療への応用が進むと期待される。
iPS細胞は皮膚や血液などの細胞に遺伝子群を導入して作り、神経や筋肉、さまざまな臓器の細胞に変えられる。現在は培養皿の底面に付着させて作り、増やす方法が標準的だが、大量生産が難しい。一方、培養液に浮遊させた状態だと、ひとりでにさまざまな細胞に変わり始めてしまう問題があった。
理研の林洋平チームリーダーらはこの問題を2種類の阻害剤で解決。血液の単核白血球に遺伝子群を導入してiPS細胞を作り、ゆっくり回転する実験容器内の培養液で増やした後、1個ずつ分離したり、凍結保存・解凍したりする技術を確立した。
再生医療に使う際は、患者自身の細胞からiPS細胞を作り、必要な細胞に変えて患部に移植すれば、免疫拒絶反応が起きない。しかし、現状はコストが高過ぎるため、他人のiPS細胞をあらかじめストックしておき、ヒト白血球抗原(HLA)の型がある程度合う細胞を使って拒絶反応を起きにくくする方法が採られている。
林リーダーは「浮遊法で大量培養できれば、(患者自身のiPS細胞を使う)自家細胞治療の実現に貢献できる」と話している。
[時事通信社]