「1人でも多くに被爆者の話を聴いてほしい」。そんな思いでオンラインの被爆証言会を開催する若者がいる。一橋大大学院生の佐藤優さん(23)=東京都八王子市=は日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)のノーベル平和賞受賞決定に「おめでとうで終わってはいけない。核の脅威が高まっていることへの警鐘の意味もある」と語る。
仙台市出身の佐藤さんが原爆に関心を持ったのは、高校2年の時だ。被爆から50年の動きを振り返った平岡敬・元広島市長の著書を読み、「被爆者の話を直接聴いてみたい」との思いを抱き、同市立大へ進学。在学中、原爆資料館で遺品整理のボランティアを行い、50人以上の証言を聞いた。
そんな中、伝えたい気持ちはあっても、「体がついていかない」と証言活動をやめる被爆者が少なくないことを知った。「自分が被爆者の家に行き、オンラインでつなげば、まだ届けられる」。2023年11月、インターネットを通じて被爆証言を聴くことができる「被爆者と若い世代をつなぐ集い」を始めた。
対象は35歳未満だが、35歳以上も受け付けている。これまでに延べ約200人が参加し、初めて被爆体験を聴いた人や、集いをきっかけに広島を訪れた人もいたという。
一方、佐藤さんは「被爆や核について話すことに抵抗を感じている若者は多い」とも話す。証言会で被爆者と対話できる時間を設けても、黙ったままの若者は少なくないという。「核の話は政治的な問題と思われがちだが、自分と関係ない、遠い世界の問題ではない」と訴える。
日本被団協の受賞が決まった際、いつも証言してくれる被爆者の顔が思い浮かんだという。普段、核を話題にしない友人からも連絡があり、「関心を集めている今がより多くの人に届けるチャンス」と佐藤さん。「直接話を聴くことができる今のうちに思いを受け継ぐことが、いずれ力を持つはずだ」と力を込めた。
[時事通信社]