厚生労働省が次期年金制度改革で、長期にわたって目減りが続く基礎年金の底上げ策を打ち出したのは、現在40~50代の「就職氷河期世代」が老後に低年金へ陥るのを防ぐためだ。財源には厚生年金の積立金と国費を充てる。ただ、追加投入される国費は将来的に兆円単位に上り、増税が避けられない。衆院で与党が過半数割れとなる中、与野党間の調整は難航が予想される。
厚労省の長期見通しによると、基礎年金の減額調整は氷河期世代が70~80代になる2057年度まで続く。同世代は低収入の非正規雇用期間が長く、年金保険料の未納・免除期間がある人も多い傾向にある。厚労省幹部は「基礎年金が老後生活の柱になる人は多いはず。何も対策を講じなければ高齢者の貧困が大きな社会問題になる」と危機感を募らせる。
基礎年金の底上げ案が実現すれば、給付水準が現行より3割改善するのに加え、氷河期世代が70代に入る前の36年度で減額調整期間を終えることができる。
最大の課題は財源の確保だ。基礎年金の財源の半分は国庫で賄われる。国庫負担は36年度以降に増額し、40年度に5000億円、50年度には1兆8000億円と増え続ける。政府はまず、法改正で基礎年金底上げの枠組みを整備した上で、具体的な財源は改めて検討するスケジュールを想定する。政府関係者は「改正案には安定財源の確保について明記すべきだ」とくぎを刺す。
さらに、底上げによる恩恵は低所得層に限らず、ほぼ全ての年金受給者に及ぶ。社会保障審議会(厚労相の諮問機関)の年金部会では、一部委員から「国費を追加投入するのに、困窮していない人の年金まで引き上げるのは疑問だ」との意見も出ている。
来夏には参院選も控え、来年の通常国会では与野党間の対決モードが高まることも予想される。立憲民主党の幹部は「方向性は理解できるが、増税が絡むため簡単に賛成できない。高所得者の年金が増えるのも問題だ」と語る。
[時事通信社]