石破政権下で初の「政労使会議」が開かれ、石破茂首相は賃上げ実現への意欲を強調した。経済の好循環を目指す岸田政権からの流れを定着させられるかどうかが、政権安定のカギを握るとみているからだ。10月の衆院選で躍進した国民民主党が「手取りを増やす」取り組みを訴えていることも意識している。
首相は26日の会議で「賃金上昇が物価上昇を安定的に上回る経済を目指す。来年の春闘は今年の勢いで大幅な賃上げの協力をお願いする」と要請。政権として中小企業と地方経済に特に目配りする姿勢を示した。
最低賃金の全国平均を2020年代に1500円へ引き上げる自身肝煎りの目標については、出席した関係閣僚に来春までの方策取りまとめを指示。経済界に理解を求めた。
賃上げの旗を振った岸田政権は、今年の春闘に向けて政労使会議を3回開催。賃上げ率は全体で5.10%となり、33年ぶりの高水準を記録した。
石破政権はこの流れを引き継ぐため、22日に決定した総合経済対策で「全ての世代の現在・将来の賃金・所得を増やす」を柱に据えた。来年1月召集の通常国会と夏の参院選を乗り切るため、政権の立て直しを急ぐ。
国民民主が主張する「年収103万円の壁」見直しを巡っても、25年度税制改正に向けて自民、公明両党の税制調査会が議論を本格化させた。自民党関係者は「賃上げや手取り増は国民民主の専売特許ではない」と指摘。政権側への取り込みを図りつつ、世論に向かって成果をアピールしようとする思惑が透ける。
ただ、最低賃金の引き上げについては、特に中小企業の経営者側に抵抗感が強い。会議に出席した日本商工会議所の小林健会頭は「20年代・1500円」という目標に対して「速度と額には大いに懸念を持っている」と表明した。「年収の壁」見直しでも、税収減の影響を受ける地方自治体から慎重な検討を求める声が相次ぐ。
首相は会議の場で、「勇気」を持って踏み出すよう促した。だが、一致点を見いだすのは容易ではなく、政権の思惑通りに所得の向上や政権の浮揚につながっていくか見通せない。
[時事通信社]