【ボパール(インド)時事】インド中部ボパールで発生し、最大2万5000人超が死亡したとされる1984年12月の有毒ガス漏出事故から40年を迎える。いまだ後遺症に苦しむ住民は多く、負の影響は次世代にも引き継がれている。
◇深刻な土壌汚染
事故は84年12月2~3日、米化学企業現地子会社の工場で起きた。50万人以上が健康被害を受けたとされ、旧ソ連のチェルノブイリ原発事故(86年)と並び「世界最悪の産業事故」と呼ばれる。
事故後、殺虫剤を作るための有害物質は放置され、土中に浸透。土壌から高濃度の水銀も検出された。周辺ではがんや腎不全の発症、子供の先天性疾患が相次いでいるとの指摘がある。
◇金銭支援わずか
2005年に設立された地元団体「チンガリ・トラスト」は事故の影響で心身に障害を持つ子供の支援に無償で取り組む。運営する二つのリハビリ施設には計約300人の子供が通う。そのうちの1人、サルマン・バヌ君は脳性まひを抱えている。約800グラムの低体重で生まれ、現在12歳だが7歳前後にも見える。
母親のタスリムさん(47)は40年前に感じた焼けるような目の痛みを覚えている。部屋にこもり、シーツで体を覆った。多くの人が逃げる途中の路上で倒れていた。後に夫となる男性もガスに巻かれ意識不明に陥ったところを救出され、一命を取り留めた。
タスリムさんは今も息切れなど後遺症とみられる症状に苦しむ。サルマン君の障害は事故の影響だと確信している。「私がいなくなったら誰がこの子の面倒を見るのか」と、不安を吐露した。
ウメール・アンサリ君(6)は歩いたり座ったりすることができない。母親のサイマさん(30)は事故の被害者ではないが、夫が現場付近に住んでいたと結婚後に知った。ウメール君に対する政府の金銭支援は月600ルピー(約1060円)のみで、「もっと手厚くしてほしい」と訴える。
◇企業は責任否定
チンガリ・トラストは、社会活動家のラシダ・ビーさん(68)が01年に熊本県で水俣病患者を受け入れる病院を視察したことがきっかけで設立したという。「設備は整い、被害者への配慮を感じた」と話す。ボパールの事故について「政府や企業は私たち市民を考慮せず、被害者は受けるべき支援を受けていない」と憤る。
「40年たっても正義のかけらもない」。別の支援団体を率いるラチナ・ディングラさん(47)はそう憤る。節目に合わせ、ビーさんらと被害者への追加補償を求める請願を最高裁に出した。
事故後、加害企業を買収した米化学大手ダウ・ケミカルは法的責任を否定。汚染土壌の浄化を求める要請を拒んでいる。同社は時事通信の取材に応じていない。
[時事通信社]