核超大国の米国とロシアの間では、削減どころか核軍拡の機運が高まっている。トランプ次期米大統領の就任で、歯止めがさらに失われるとの懸念も広がる。トランプ氏の復権で米欧に亀裂が生じれば、それに乗じてロシアも核搭載可能な中距離ミサイルの配備を進める構えだ。
◇爆発伴う実験再開も
「核兵器こそが現在の世界で最大の脅威だ」。トランプ氏は大統領選直前の10月下旬、若者に人気のポッドキャスト番組に出演し、こう訴えた。
オバマ元大統領は「核なき世界」を掲げ、2009年のノーベル平和賞を受賞。21年に就任したバイデン大統領も、核保有の目的を核攻撃の抑止と報復に限るという「核の唯一目的化」を訴えた。しかし、中国が核戦力を増強しロシアも近代化を推し進める中、米国の核軍縮路線はトランプ氏の返り咲きとともに暗礁に乗り上げそうだ。
トランプ氏の側近で政権1期目に大統領補佐官(国家安全保障担当)を務めたロバート・オブライエン氏は、今年6月の外交誌への寄稿で「中ロが保有する核兵器に対する技術的・数的優位を維持しなければならない」と核戦力増強を主張。1992年を最後に行っていない核爆発を伴う核実験の再開も提案した。
◇新START後継にも暗雲
米ロ間に唯一残る核軍縮枠組みの新戦略兵器削減条約(新START)は、26年2月に失効する。その後継となる条約の議論にも暗雲が漂っている。
トランプ氏は政権1期目、中国も含めた包括的な核軍縮体制構築を提案し、新STARTの延長に難色を示した。バイデン政権が発足直後にロシアと5年間の延長で合意したが、ウクライナ情勢を巡る対立を背景に、核兵器保有数を制限する米ロの交渉は現時点で正式に始まっていない。中国が交渉に参加する見通しも立たない。
米シンクタンク「軍備管理協会」のダリル・キンボル事務局長は「トランプ氏の再登板で、核の危険性はさらに高まった」と、核軍拡時代の再来に懸念を示している。
◇ドクトリン改定でけん制
ロシアのプーチン大統領は11月21日、侵攻するウクライナ東部に「新型」の極超音速中距離弾道ミサイルを撃ち込んだと発表した。「世界初使用」という多弾頭落下の映像が捉えられ、翌22日の会議では「迎撃手段はない」と豪語。戦略ミサイル軍トップは「欧州全土の標的を攻撃できる」と警告した。
中距離ミサイルは「古くて新しい」問題だ。欧州と旧ソ連との配備合戦になれば、核戦争のリスクを負ってまで欧州を助けるべきか否か、米国に迷いが生じる。そうした懸念から88年に米ソ間で発効した中距離核戦力(INF)全廃条約について、第1次トランプ政権は19年に破棄。ロシアはこれに乗じ、配備の「解禁」を示唆してきた。
トランプ氏は過去、他の加盟国の防衛費負担が不十分だとして、北大西洋条約機構(NATO)と距離を置いた。米国が欧州と分断を深めれば、ロシアに有利だ。
プーチン政権は11月19日、核兵器の使用条件を記した核ドクトリンを改め、ウクライナを支える米欧も核攻撃の対象になり得るとけん制した。23年には新STARTの履行を停止しており、トランプ氏の出方をうかがっている。
[時事通信社]