【ソウル時事】韓国の尹錫悦大統領が内乱容疑の捜査対象になったことで、当面の国政運営は韓悳洙首相が実質的に担い、与党「国民の力」の韓東勲代表と協議して進める見通しだ。ただ、現状では大統領の権限を代行できる法的根拠はない。「憲政秩序の破壊」(最大野党「共に民主党」の李在明代表)と激しく反発する野党は11日に尹氏の弾劾訴追案を国会に改めて提出し、14日に採決する方針だ。
与党の韓代表は8日、韓首相と並んで記者発表し、「大統領は退陣前でも外交を含めて国政に関与しない」と表明。韓首相は「与党と共に知恵を集め、全ての国家機能を安定的かつ円滑に運営する」と強調した。
尹氏は7日の談話で進退を含め混乱収拾を与党に一任すると述べ、一線を退く意向を示唆した。しかし、辞任するか弾劾されない限り任期は2027年まで続く。禹元植国会議長は「大統領の権限を首相と与党が共同で行使しようというのは明白な違憲だ」と批判。李氏は「もう一つのクーデターだ」と糾弾した。
実際、尹氏は8日、李祥敏行政安全相の辞任を裁可。また、国防省報道官は9日、軍の統帥権が「法的には大統領にある」と説明した。有事に首相が対応できるのかどうか不透明で、法的に不安定な状態では国防上の不安もつきまとう。
ただ、憲法は「大統領が欠位や事故によって職務を遂行できない場合」に首相が職務を代行できると定めている。尹氏が辞任しなくても、逮捕など身柄拘束された場合は「事故」として法的要件を満たすとの見方が出ている。
与党は9日に幹部会議などで対応を協議したが結論が出なかった。党内では任期5年を短縮して再任を可能とする憲法改正を提案して難局をしのぎ、退陣を引き延ばすシナリオも取り沙汰されるが、野党が受け入れる可能性は乏しい。野党は世論を背に、弾劾訴追案が成立するまで「毎週提出する」(共に民主党幹部)構えで、与党側がいつまで持ちこたえられるか予断を許さない。
[時事通信社]