【ソウル時事】韓国の尹錫悦大統領は12日、国民向けの談話で約30分にわたり「非常戒厳」宣言の正当性を訴えた。反省どころか、迫る弾劾訴追や捜査を見据えて国民の理解を得ようとした。その内容からは、与党「国民の力」が惨敗した4月の総選挙の結果に不満を募らせ、不正選挙の主張を強めていった姿が浮かぶ。
「巨大野党は数十人の政府公職者の弾劾を進め、弾劾乱発で国政をまひさせてきた」。尹氏は「憲政秩序を破壊した怪物」などと最大野党「共に民主党」への批判を繰り返し、戒厳令が「国を守るための大統領の統治行為」だったと強調。「内乱ではない」と抗弁した。
尹氏が特に強調したのは、総選挙の不正の疑いだった。北朝鮮のサイバー攻撃を受けた中央選挙管理委員会が情報機関、国家情報院の調査に十分に応じず、総選挙までに問題が改善されたか不明だと主張。戒厳令で選管に軍を派遣したのは、強制的に調べるためだったと説明した。
尹氏は「いくらでもデータのでっち上げが可能だった」と述べ、「民主主義の核心である選挙を管理するシステムがでたらめで、国民が結果を信頼できるのか」と訴えた。
不正選挙説は韓国で一部の「極右ユーチューバー」が唱えてきたが、まともに受け止められていなかった。2022年大統領選を共に戦った元与党代表の李俊錫議員は「不正選挙の陰謀論に陥った大統領」との見方を示した。選管も「尹氏が自ら当選したシステムを自己否定した」と皮肉った。
尹氏は、野党が最近、検察幹部と監査院長の弾劾を進めたことを挙げ、「何かしなければならないと判断し、非常戒厳令発動を考えた」と説明した。
ただ、総選挙後から既に追い詰められていたとの情報もある。有力紙・中央日報によると、尹氏と共謀した内乱容疑で捜査を受ける呂寅兄軍防諜(ぼうちょう)司令官は検察に「初夏に大統領と会食した際に時局の話題になったが、(尹氏は)激高して戒厳の話を持ち出した」と証言した。呂氏はいさめたが、それ以降も数回、尹氏は戒厳の必要性に言及。土下座して「そんな話をしてはいけない」と訴えたこともあったという。
尹氏は進退を与党に一任するという前言を撤回し、早期退陣を拒否する姿勢を明確にした。尹氏の弾劾訴追の妥当性を判断する憲法裁判所の裁判官6人のうち4人は尹政権発足後に任命されており、弾劾訴追が棄却、却下される余地があると見込んでいる可能性がある。
[時事通信社]