【イスタンブール時事】シリアで半世紀以上に及んだアサド父子による独裁政権が崩壊して15日で1週間。政権打倒を果たした旧反体制派が主導する暫定政府が発足し、前政権下の治安部隊解体、憲法や国会の停止など、圧政を極めたアサド体制との決別が進む。円滑な権力移譲からの国家再建を目指すが、政情の安定や国際社会との関係構築など課題は山積している。
来年3月までの任期で就任したバシル暫定首相は「法の支配」「全ての国民と宗教・宗派の権利の保障」などを訴える。少数派のイスラム教アラウィ派出身だったアサド前大統領は、権力維持のため自身に近い宗派を優遇し、秘密警察などが政権に批判的な市民を徹底的に弾圧。こうした「負の遺産」を教訓に、暫定政府は穏健路線を打ち出し、国民の融和と支持のつなぎ留めに努めている。
シリアでは現在、「独裁からの解放」に祝賀ムードが広がる。政権崩壊後初の週末の金曜日だった13日、首都ダマスカスや北部アレッポなど各地で市民が街頭に繰り出し、自由をたたえる姿が報じられた。
暫定政府は早期の組閣を目指し、旧反体制派拠点の北西部イドリブ県を統治した「シリア救国政府」メンバーが主要閣僚を引き継ぐ見通しだ。ただ、「反アサド」で連携した他の旧反体制派などとの協力や前政権閣僚らの処遇は不透明で、対応次第では反発が起きる可能性もある。
内戦で荒廃したシリアの再生には、国際社会への復帰が不可欠だ。アサド前政権を支えたロシアやイランの存在感が低下し、旧反体制派と緊密な隣国トルコやカタールなどが影響力を強化。中東アラブ諸国も関係改善に着手した。一方、テロ組織に指定される「シャーム解放機構」(HTS)が暫定政府を主導することへの警戒感から、欧米諸国では「言葉だけでなく行動で判断する」(バイデン米大統領)と慎重な見方が大勢だ。
暫定政府の発足後も、シリアは安定とは程遠い。北部ではトルコが支援する武装勢力とクルド人勢力の交戦が激化し、混乱に乗じた過激派組織「イスラム国」(IS)の勢力回復への懸念も残る。独裁の終幕後も内戦が収束するめどは立たないままだ。
[時事通信社]