アサド政権が崩壊したシリアで、暫定政府を主導する旧反体制派「シャーム解放機構」(HTS、旧ヌスラ戦線)の指導者ジャウラニ氏の動向に関心が集まっている。過去に戦闘員として国際テロ組織アルカイダ指導者に忠誠を誓い、米国などが国際テロリストに指定。近年は穏健化をアピールしているが、実態は不透明だ。
中東の衛星テレビ局アルジャジーラなどによると、ジャウラニ氏はシリア人の父が石油関連の技術者として赴任していたサウジアラビアで1982年に生まれた。2000年代初頭の第2次インティファーダ(対イスラエル民衆蜂起)に感化され、イスラム過激主義に染まったという。03年のイラク戦争開始後はイラクに渡ってアルカイダ戦闘員となり、米軍に5年間拘束された。
11年にシリア内戦が始まると、アルカイダの支援を受け同国でヌスラ戦線設立に関与。16年にアルカイダとの絶縁を宣言したが、後継のHTSは今も米国からテロ組織指定を受けている。
11月下旬にHTS主体の旧反体制派が大規模進攻を開始した直後に米CNNテレビに出演。「イスラム統治を恐れる人々は、誤った行いを見てきたか、正しく理解していないかだ」と語るなど国際的な承認をにらみ、欧米を敵視しないソフトなイメージを得るよう努めた形だ。
ただ、アサド政権が崩壊した今月8日、ダマスカスで演説し「すべてのシリア人にとっての勝利だ」と融和を唱える一方、新生シリアが「イスラム国家の導き手」になると強調した。13年のアルジャジーラのインタビューでは、シャリア(イスラム法)に従い国を運営する計画を語ったこともあり、当時から考えが変化したかは不明だ。
高岡豊・中東調査会協力研究員(中東地域研究)は「穏健化はにわかには信じがたい」と分析。実際、アサド政権崩壊後に暫定政府が教育機関に「小学生からの男女別学」「イスラム的服装をさせる」といったアフガニスタンのイスラム主義組織タリバンをほうふつさせる通達を出したという情報があり、先行きに懸念を示した。
[時事通信社]