【シリコンバレー時事】11月の米大統領選では、返り咲きを決めた共和党のトランプ前大統領や、トランプ氏を支持したX(旧ツイッター)オーナーの実業家イーロン・マスク氏がXで積極的に発信し、SNSが有権者の投票行動に与える影響力を見せつけた。マスク氏による買収後、Xの運営が「右寄り」に転換。保守派を中心に広がる従来型メディアへの不信と共鳴し、Xが存在感を増したとも指摘される。
◇推奨投稿が「右寄り」に
米プリンストン大のトーマス・フジワラ准教授らの論文によると、2016年と20年の大統領選では民主党支持層が当時のツイッターを主に活用。その投稿には、無党派層にトランプ氏への投票を思いとどまらせる効果があった。だが、マスク氏による22年10月の運営会社買収を機に、状況が一変する。
マスク氏は買収後、投稿規制を緩和し、差別など憎悪表現を理由に凍結されたアカウントを回復させた。21年1月の連邦議会襲撃をあおったとして停止されたトランプ氏のアカウントも復活。反発したリベラル層がサービスを離れ始めた。
南カリフォルニア大のエミリオ・フェラーラ教授らが大統領選直前の今年10月に収集したデータでは、党派性の薄いアカウントに「右寄り」の投稿が多く「おすすめ」として表示されていた。フェラーラ氏は「買収だけが理由とは断定できない」としつつ、買収後の「規則やアルゴリズム(計算手法)の変更の影響(が政治的に偏向していなかったか)に疑問を投げ掛けるものだ」と語る。
◇スウィフトさんしのぐ
そうした変更がXの求心力を高めたのは確かだ。保守派論客のデービッド・フレンチ氏はニューヨーク・タイムズ紙に寄せたコラムで、今年1月の右派メディアのサイト訪問者数が4年前から激減したとの調査を紹介。「Xが右派の大衆に訴える中心的手段になった」と指摘した。
買収はXだけでなく、マスク氏個人の影響力も飛躍的に高めた。もともと電気自動車(EV)大手テスラや宇宙企業スペースXを興し、世界一の大富豪にのし上がった立志伝中の人物。Xで2億人超のフォロワーを抱える「人気者」だ。
マスク氏はXで、SNS投稿管理批判や陰謀論、反ユダヤ的な言説、多様性推進への反発など、トランプ支持層に刺さる主張を率先して拡散。買収後は自身の投稿が優先表示されるよう、アルゴリズムを修正した。ハーバード大が公表した選挙後の世論調査結果によれば、有権者の42%がマスク氏の支持表明が投票に影響したと回答。人気歌手テイラー・スウィフトさんの36%を上回った。
◇新聞・ラジオは「偽物」
マスク氏は選挙期間中、新聞やテレビといった従来型メディアを「フェイク(偽物)」と糾弾し続けた。そうした姿勢がXの運営方針にも反映され、以前はメディアや議員の投稿が拡散される傾向にあったが、買収後はアルゴリズムの変更で、政治的なインフルエンサーが目立つようになったとの研究もある。世論に影響を及ぼす情報発信の主要な担い手を従来型メディアから置き換えようと、選挙後も「あなたたちがメディアだ」と頻繁に利用者へ呼び掛ける。
米ギャラップ社の24年の調査によると、米国でのメディア報道を「大いに、またはかなり信頼する」と回答したのは31%で、旧ツイッターのサービス開始翌年の07年から16ポイント低下。「全く信頼しない」の36%を下回った。従来型メディアへの不信が強まり、XをはじめとするSNSなどの媒体が、相対的に情報源としての地位を高めている実態を浮き彫りにした形だ。
[時事通信社]