2025年の年金制度改革の柱である「基礎年金の底上げ策」に対し、自民党が警戒感を強めている。「就職氷河期世代」以降の年金水準の改善が狙いだが、底上げによって現在の高齢世代の年金額が減るためだ。少数与党で厳しい政権運営を強いられる中、国民の負担増を伴う改革は来夏の参院選への影響も大きく、同党は慎重な制度設計を政府に求めている。
年金制度維持に向けたマクロ経済スライドの適用で、基礎年金は過去30年と同じ経済状況が続く場合、57年度まで減額調整が続く見通し。厚生労働省は「非正規での雇用期間が長い現在40代から50代の会社員らが、低年金に陥るリスクがある」として、財政が比較的安定している厚生年金の積立金と国費を投入して目減り期間を短くする見直しを提案。これにより、給付水準を3割程度改善させることが可能になる。
ただ、基礎年金の底上げ策は国民の負担増が伴う。厚労省の試算では厚生年金の受給額が40年度まで減り続け、多額の国費投入で将来的な増税議論が避けられない。立憲民主党の長妻昭代表代行は10日の衆院予算委員会で、高齢世代の年金減を問題視し、「何らかの手当てをしないと世代間論争を生んでしまう」と指摘した。
国民生活に直結する年金制度改革の議論はしばしば与野党間で「政争の具」となってきた。自民党は来夏の参院選で、年金改革を巡って与野党の対決モードが高まることを懸念。「政権は成長持続型の経済を目指しているのに、厚労省の見通しは悲観的過ぎる」(幹部)として、底上げ策を「経済が好調に推移しない場合の備え」と位置付けるよう求める提言をまとめた。
厚労省の試算でも成長持続型の経済ケースでは、高齢世代の年金減を生じさせずに基礎年金を底上げできるが、少子化や人口減少など厳しい社会環境の下で成長を維持できるかは不透明だ。自民党の提言内容は、社会保障審議会年金部会の報告書案にも反映されたが、厚労省は制度設計する上で難しい判断を迫られそうだ。
[時事通信社]