【北京時事】中国の習近平政権は岩屋毅外相を北京に迎え、対話拡大に前向きな姿勢を示した。日本側も1年8カ月ぶりとなった今回の外相訪中で、関係改善に弾みをつけたい考えだ。ただ、双方が譲れない課題は山積しており、日中関係は依然緊張をはらんでいる。
「対中関係を重視し、就任以来、両国の交流と意思疎通に力を入れたことに称賛の意を表したい」。中国の李強首相は25日の面会でそう述べ、岩屋氏を歓迎した。日中両政府は2023年11月に韓国・釜山で行った外相会談で、外相の相互訪問で合意。だが、岸田政権の退陣などで先送りとなり、年内ぎりぎりで実現にこぎ着けた。
習政権は石破茂首相の就任後、日本に秋波を送ってきた。今年11月にはペルーで石破氏と習国家主席が会談。同月末には日本側にとって「サプライズ」(外交関係者)となる形で、短期ビザ免除の再開に踏み切った。東京電力福島第1原発の処理水放出を巡る問題でも、「汚染水」という呼称を使い続けつつ、9月に日本産水産物の輸入再開で合意した。
背景には、来月のトランプ米政権発足がある。トランプ次期大統領は対中関税引き上げを公言するなど、中国に厳しい態度で臨むとみられている。習政権は米国の強硬姿勢をにらみ、他の主要国や周辺国との関係安定化を急いでおり、対日関係の立て直しもその一環と位置付けているもようだ。景気低迷が続く中、日本からの投資を呼び込む狙いもあるとみられる。
一方、日本側としても、中国側が前向きなうちに関係改善を軌道に乗せ、25年の王毅共産党政治局員兼外相や李強首相の早期訪日につなげる方針。関係停滞を打開し、日本企業が中国ビジネスで実利を得られる環境を整備したい考えだ。外務省関係者は「真剣で中身の濃い外相会談だった」と話した。
ただ、日本人が巻き込まれた蘇州や深センでの事件で、中国は真相解明を求める日本側に十分な説明をしていない。スパイ容疑で拘束された邦人の早期解放の実現も見通せない。
中国公船の領海侵入も相次いでいるほか、沖縄県・与那国島南方の排他的経済水域(EEZ)内で、中国が設置したとみられる海上ブイが新たに一つ確認されたことも明らかになった。習政権は海洋権益や安全保障に関し一歩も譲らない構えを崩しておらず、関係改善が順調に進むかは不透明だ。
[時事通信社]