能登半島地震で被災地の福祉施設や病院から避難した高齢者のうち、富山県と愛知県が受け入れた約15%に当たる計38人が今月までに亡くなったことが25日、分かった。長距離移動のストレスや生活環境の変化が影響した可能性があり、石川県は広域避難の在り方について検証を進める。
県外避難の対象となった4県に25日時点の状況を取材した。富山県によると、避難した176人のうち22人が県内の福祉施設などで死去。愛知県では、68人のうち2割強の16人が施設や病院で亡くなった。福井県と岐阜県はそれぞれ54人、13人の高齢者を受け入れたが、死者数などの内訳は非公表とした。
地震では、停電や断水、建物の損壊で多くの施設や病院が機能しなくなり、災害関連死を防ぐため、広域の避難搬送を余儀なくされた。石川県によると、こうした入所者や患者は同県内も含め一時最大約1600人に上った。
災害直後から災害派遣医療チーム(DMAT)の活動を指揮した国立病院機構本部DMAT事務局次長の近藤久禎医師は、避難自体は避けられなかったとしつつ、死者数について「厳しい数字が出ている」と話す。
近藤医師は広域避難の課題として、移動のストレスに加え、それまで家族の介護や地域の見守りによって補われてきた福祉の機能が避難先で失われかねないことや、被災地の福祉に空白が生じ復興が遅れる点を挙げる。「避難は不幸を招く。できるだけ抑制的に、できるだけ地域で支えることに手を尽くすべきだ」と説く。
一方、被災地の施設関係者は当時の状況が限界を超えていたと指摘する。輪島市の介護老人保健施設「百寿苑」は建物が大きく壊れ、大半が自力で歩けない96人の入所者を1カ所に集め、食事や排せつなどの介助を続けた。
道路の寸断で支援も入れず、途中で亡くなった入所者は施設内で数日安置しなければならなかった。船本貴宏副施設長は「職員は疲弊していた。入所者は栄養ある食事を取れず、感染症のリスクもあって命に関わる状況だった」と振り返る。
石川県によると、七尾市以北の能登6市町で地震後に事業休止に追い込まれた28施設のうち、12施設は再開できていない。百寿苑は建て直しが必要で、事業再開を断念せざるを得ない状況だ。船本副施設長は「戻したくても戻す施設がない。本当に心苦しい」と語った。
県の24日のまとめでは、災害関連死の原因として、広域避難などに伴う「転院、悪路・長時間の搬送」が約3割に上った。県の飯田重則危機管理監は「2次避難や避難所の環境がどう影響したのか、繰り返さないよう国レベルで分析が必要だ」と話した。
[時事通信社]