【ソウル時事】韓国の革新系最大野党「共に民主党」が、大統領代行の韓悳洙首相の弾劾訴追にまで踏み切った背景には、尹錫悦大統領を罷免し早期の次期大統領選実施に持ち込もうという思惑がある。保守系与党「国民の力」は国政トップを次々と職務停止に追い込む野党の強引な手法に強く反発し、政局は泥沼化の様相。権力の空白による外交や経済への悪影響も出ており、「国政まひ」の懸念は高まる一方だ。
「尹錫悦を罷免し、擁護する勢力を根絶する」。共に民主党の李在明代表は27日、韓氏の弾劾訴追案の採決を前に声明を出し、こう気勢を上げた。
野党が弾劾訴追に踏み切ったのは、韓氏が与野党の妥協を求め、憲法裁判所の欠員裁判官の任命を「保留」したためだ。現行の判事6人態勢では、罷免には全員の一致が必要。さらに、6人のうち2人は来年4月に退任予定で、欠員補充がないまま審判が長引けば、審理自体がストップしてしまう。野党側には早期に欠員を埋め、罷免の可能性を高める狙いがあった。
尹氏の弾劾訴追後、与野党は国政の主導権を争いつつも、一時は国会議長、韓氏と共に「国政安定協議体」の初会合を26日に開くことで合意。しかし、野党が同日韓氏の弾劾訴追案を提出し、開催すらできなかった。
韓氏が職務停止となったことを受け、崔相穆経済副首相兼企画財政相が大統領を代行するが、野党は裁判官任命を求め崔氏への圧迫も強める構え。崔氏は採決を前に声明を出し、弾劾訴追を再考するよう訴えたが、野党は聞き入れなかった。
大統領代行が弾劾訴追される事態は前例がなく、権力不在の影響は深刻だ。日米首脳と電話会談するなどし、国政が正常に運営されていることをアピールした韓氏も職務停止を強いられたことで、代行体制の対外信頼度が低下しかねない。また、政局の混乱への懸念からか、韓国ウォンは27日、対ドルで急落し、韓国メディアによると、リーマン・ショック以来のウォン安となった。
国民の力の権性東院内代表は、「国を滅ぼしてでも権力を得るという卑劣な欲望を如実に示した」と野党への批判を強めており、与野党の対立は出口が見えない。
[時事通信社]