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上皇后さま、未発表466首=歌集「ゆふすげ」刊行

時事通信 2025年1月10日 14時26分

 上皇后さま(90)が詠まれた未発表の和歌466首を収めた歌集「ゆふすげ」が15日に刊行される。1968(昭和43)年~2018(平成30)年の半世紀に作った歌で、皇太子妃だった昭和時代の192首と、皇后となった平成時代の274首を収録。一人の女性として、日々感じたことを率直に表現した歌が並ぶ。

 〈三日(みか)の旅終へて還らす君を待つ庭の夕すげ傾(かし)ぐを見つつ〉(74年)

 「三日の旅」に出た皇太子時代の上皇さまの帰りを待っている時、お住まいの庭にユウスゲが咲いていた。ユウスゲは、上皇ご夫妻が長野県軽井沢町から贈られたものを育て、同町で花が減ると種を贈ってきたゆかりの花だ。他にもこの花を題材にした歌が収められ、上皇后さまが歌集の題名に選んだ。

 未発表の歌は令和への代替わり後、宮内庁御用掛として皇室の和歌の相談役を務める歌人の永田和宏さん(77)が、上皇后さまが歌を詠んでいるかを同庁に尋ねる中で存在が判明。永田さんは「誰の目にも触れずに残っているのは何としても残念」と考え、上皇后さまに刊行を強く勧めた。

 〈幾度(いくたび)も御手(おんて)に触るれば頷きてこの夜は御所に御寝(ぎょしん)し給ふ〉(03年)

 この年に前立腺がん手術のため入院し、久しぶりにお住まいに戻った上皇さまを詠んだ。「普段見られないご夫妻の関係がよく分かり、母親のような所作にほのぼのとさせられる」と永田さんは語る。

 ご家族との日常を慈しみ、自然に親しむ一方、災害や戦争のほか、北朝鮮による拉致被害者と家族を詠んだ歌もあり、困難な状況にある人々に寄り添う姿勢がうかがえる。

 〈帰り得ぬ故郷(ふるさと)を持つ人らありて何もて復興と云ふやを知らず〉(14年)

 東日本大震災後、故郷に帰ることのできない多くの人がいる中で、何をもって「復興」と言えるのだろうかという強い疑問を歌にした。

 永田さんは「特殊なお立場を離れ、人間としての素顔を感じられる歌が多く収められており、より身近な存在に感じられるのではないか」と話す。

 「ゆふすげ」は岩波書店から刊行される。定価は1980円。

 

 ◇上皇后さま「ゆふすげ」の主な歌

 ▽夕すげ(1974年)

 三日(みか)の旅終へて還らす君を待つ庭の夕すげ傾(かし)ぐを見つつ

 ▽電話(77年)

 行くことの適(かな)はずありて幾度(いくたび)か病(や)む母のさま問ひしこの電話

 ▽避暑(81年)

 夕暮れに浅間黄すげの群れ咲きてかの山すその避暑地思ほゆ

 ▽進学(82年)

 いや高き学びの道に進まむと面(おもて)さやかにわが子告げ来ぬ

 ▽硫黄島(94年)

 戦場にいとし子捧げし ははそはの母の心をいかに思はむ

 ▽水仙(97年)

 被災地に手向(たむ)くと摘みしかの日より水仙の香は悲しみを呼ぶ

 ▽病院より一時還御(2003年)

 幾度(いくたび)も御手(おんて)に触るれば頷きてこの夜は御所に御寝(ぎょしん)し給ふ

 ▽アフガニスタン、イラクと戦続く日日に(03年)

 をとめ座のスピカまたたく春の夜(よる)遠きイラクに空爆つづく

 ▽拉致被害者家族 五人の子ら両親の許に帰り来たれば(04年)

 五月なる日の本の地に来(こ)し子らのその父母(ちちはは)とある夜(よ)を思ふ

 ▽津波(11年)

 この広き仙台平野水漬(みづ)きつつかの大波は渡り行きしか

 ▽復興(14年)

 帰り得ぬ故郷(ふるさと)を持つ人らありて何もて復興と云ふやを知らず

 ▽福島県広野町(18年)

 この土の生かされむ遠き日を念(おも)ふフレコンバック積み並(な)む道に

。 

[時事通信社]

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