【ニューデリー時事】スズキがインドで牛ふんから自動車のバイオガス燃料を作る取り組みを本格化させている。温室効果ガス排出を実質ゼロにするカーボンニュートラルの実現に向け、電気自動車(EV)だけではない手段に着目した。
◇今夏にも工場稼働
昨年12月25日、インド西部グジャラート州の農村部。のどかな風景の中に鈴木俊宏社長ら幹部一行の姿があった。視察した酪農家では飼育している牛のふんを回収。発酵槽に入れ分離したメタンガスを自宅で調理する際の燃料として使っていた。メタンを取り出した残りかすは有機肥料として活用する。
バイオガス工場の設置・運営管理を担う政府機関、全国酪農開発機構(NDDB)の子会社による実証モデル村だ。スズキはほぼ廃棄されている牛ふんを酪農家から買い取って同じような仕組みでメタンを抽出、圧縮天然ガス(CNG)車の代替燃料として使う取り組みを進めている。
スズキはグジャラート州内に牛ふん由来のバイオガスの工場を5カ所設置する計画。このうち2カ所は今夏にも稼働予定だ。工場に併設したバイオガスの充填(じゅうてん)スタンドで燃料を販売する。スズキはNDDB子会社に出資する契約を締結。主要な乳業組合とも協力し、バイオガス事業を全土に拡大していく狙いだ。
◇車3000万台分
牛ふんに含まれるメタンには二酸化炭素(CO2)の約28倍の温室効果がある。メタンを燃焼させることで大気中への放出を防ぐことができる。また、牛10頭の1日分のふんでCNG車1台を1日中走らせることが可能。インドで生息する牛は約3億頭とされ、理論的には3000万台の車を走らせることができる計算だ。スズキはインドでのCNG車販売シェアで7割超を占める。
視察先ではせんべいのような形に固めた牛ふんが日干しされていた。農村部では煮炊き用の燃料として伝統的に使われており、牛ふんの活用に抵抗感はない。そもそも牛はヒンズー教では神の乗り物とされ、神聖視されている。
鈴木氏はこの事業について「農村の底上げに非常に有効。協力してインドの発展に尽くす必要がある」と語る。他国での展開も見据えるものの現時点では社会貢献の色合いが濃く、採算が見込めるかは今後の展開次第のようだ。
視察した日、同氏の父親でインド市場を開拓した鈴木修相談役が日本で息を引き取った。
[時事通信社]