【ニューデリー時事】「アジアの給水塔」と呼ばれるチベット高原を流れる国際河川に中国が建設予定の巨大ダムを巡り、下流のインドが懸念を強めている。貴重な水資源の生殺与奪の権を握られるのに加え、放水によって洪水を引き起こす河川の「武器化」(インドメディア)を警戒している。
「中国側には専門家レベルや外交ルートを通じ、巨大プロジェクトに対する見解や懸念を一貫して伝えてきた。われわれの権益を守るため、引き続き監視し必要な措置を取る」。インド外務省のジャイスワル報道官は、3日の定例記者会見でそうくぎを刺した。
新華社通信は昨年12月、中国政府がチベット自治区を流れるヤルツァンポ川(中国名・雅魯蔵布江)下流での水力発電ダム建設計画を承認したと伝えた。別の報道によると、建設費用は推定1370億ドル(約21兆円)以上。現在世界最大級とされる同国の三峡ダムの約3倍の電力を生み出す巨大施設だ。
ヤルツァンポ川は源流の標高が世界で最も高い国際河川。インドに入って「ブラマプトラ川」と名を変え、バングラデシュを通りベンガル湾に注ぐ。中国はこれまでも開発を進めてきたが、流域国との情報共有に消極的で、特にインドが懸念を表明してきた。
中国は、同川が流れるインド北東部アルナチャルプラデシュ州を「南チベット」と呼び領有権を主張するなど、インドと国境対立を抱える。インドには、紛争勃発時に中国がダムを操作して下流域で川を氾濫させたり、逆に干上がらせたりするのではとの疑念がある。
昨年10月には5年ぶりに中印首脳会談が実現し、一定の関係改善が見られた。それでもインドの警戒感は根強く、中国に対抗し大規模放水に伴うリスク軽減のため、同州でダム建設を計画している。
中国の計画には、チベット出身者からも反対の声が上がる。チベット亡命政府議会のドルマ・ツェリン・ティカン副議長は時事通信に、今月7日にチベットを襲ったような大地震がダム付近で起きた場合、「被害は想像を絶するだろう」と危惧。「破滅から救うため、全ての人が懸念を表明すべきだ」と訴えた。
中国外務省の郭嘉昆副報道局長は、ダム建設が「生態系や地質条件、水資源に関わる下流国の権利や利益に悪影響を与えることはない」と主張。懸念払拭を図っている。
[時事通信社]