【ワシントン時事】トランプ米大統領が特権である「恩赦」を乱用している。2021年1月6日の連邦議会襲撃事件で起訴された支持者ら約1600人に恩赦を与えたほか、中絶クリニックを封鎖して有罪となった反中絶活動家らへの恩赦にも署名した。身内の共和党内からも「法の支配が損なわれる」との懸念が高まっている。
議会襲撃事件では、20年大統領選でのバイデン前大統領の勝利に反発したトランプ氏の支持者が議会へ乱入。多数が負傷したほか、死者も出た。警官への暴行や扇動共謀罪などで約1600人が起訴された。
トランプ氏にとって大統領選の敗北を受け入れないことは、21年1月に退任して以降の政治的な立脚点だった。同氏は恩赦に署名する際、議会襲撃犯を「人質」などと呼び、「彼らは不正選挙に抗議していた」と擁護した。
トランプ氏の恩赦を拒否する人もいる。中西部オハイオ州の元カウンセラーのパメラ・ヘムフィルさん(71)はトランプ氏支持者として事件に関与。禁錮60日の実刑判決を受けて、自分の過ちに気が付いたという。取材に対し「恩赦は議会警察官と法律への侮辱であり、トランプ氏によるうその物語に加担することになる」と話した。
共和党の重鎮グラム上院議員も26日放送のテレビ番組で、「(恩赦は)『暴力を振るってもよい』と示唆しているように思える」と批判的な立場を表明した。
一方、前任のバイデン氏も退任間際、恩赦を乱発した。脱税および銃犯罪の有罪判決を受けた息子ハンター氏に付与したほか、身内やトランプ氏の政敵に対して予防的な恩赦を施した。
ワシントン・ポスト紙は社説で、トランプ氏の恩赦によって「政治的な目的で野蛮な行為や暴力が、より頻繁に起こるようになる」と警告。バイデン氏の恩赦を含めて「米国の分裂を永続化させる危険な前例をつくった」と痛烈に批判している。
[時事通信社]