「目の前の治安課題に一つ一つしっかり取り組みたい」。第31代警察庁長官に就任した楠芳伸氏(58)が見据える喫緊の課題は、匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)への対応だ。取り締まり強化が大前提だが、特に力を入れたいと感じているのは、社会を巻き込んだ抑止対策だ。
原点は長く携わった交通部門の仕事にある。事故による死者数を減らすため、道交法を改正するなど取り締まり強化に尽力した。「皆同じ方向を向いてやったことで、死者数を減らすことができた」。痛感したのは、自治体や事業者、ボランティアらと志を共にし、施策を積み重ねる力の大きさだった。
千葉県警刑事部長や警視庁犯罪抑止対策本部副本部長として特殊詐欺への対応に当たり、その意を強めた。トクリュウ対策でも警察が金融機関や事業者らへ働き掛け、「機運をさらに醸成することが重要」との思いがある。
座右の銘は、中学時代の恩師から贈られた「自己に厳しくあれ、他人に寛容であれ」。逮捕など多くの権限を与えられている以上、対応が適正かどうか「自問自答しながらやるのは大事」とかみしめる。そんな楠氏を周囲は「まじめ」「全てに全力投球」と評する。
自身の短所は「せっかち、短気」と分析。裏を返せば、スピード感重視とも言え、刻一刻と変わる課題に対応する警察トップとしては「長所かもしれません」と笑いを誘った。
趣味はランニングで、健康法は規則正しい生活。
[時事通信社]