パレスチナ自治区ガザの停戦に基づき、イスラエルがこれまでに釈放したパレスチナ囚人数百人の中には、当局が司法手続きを経ずに身柄を拘束する「行政拘禁」の措置を受けた人々も含まれる。停戦発効翌日の1月20日にヨルダン川西岸の自治区ラマラに帰還した女子学生ダニア・ハナチェさん(21)もその一人。「イスラエルの占領下では、恣意(しい)的に誰でも逮捕される可能性がある」と語り、突然自由を奪われる恐怖を感じながら生活している。
イスラエルによるガザ軍事作戦進行中の2024年8月19日未明。家族と暮らす住居のドアが爆破され、イスラエルの治安部隊要員約30人が室内になだれ込んだ。要員は家中を見て回り、ハナチェさんは「あっという間」に身動きを封じられた。23年11月以来、2回目の拘束だった。
会計士を目指すハナチェさんはラマラ近郊の名門ビルゼイト大学の学生。イスラム組織ハマスやその他パレスチナ武装勢力の構成員でないのはもちろん、活動に関わったこともない。容疑など拘束理由は明かされないままだ。
ハナチェさんはイスラエル北部の刑務所に移送された。収容人数50人ほどの部屋に10~70代の女性約100人が詰め込まれ、刑務官にたたかれることもあった。同室の人々と励まし合い、いつ訪れるか分からない釈放の日を待った。
収監を解かれると知ったのは、1月19日の停戦発効日。釈放直前、荒廃したガザの状況を伝える映像を見せられた。「パレスチナの『敗北』を私の脳裏に焼き付ける狙いがあったのだろう」とハナチェさんは推測する。
釈放後も自由になったという感覚はない。「いつでも拘束されてしまう。自由も安定もない別の現実に戻っただけだ」と語り、心はとらわれたたままだ。
イスラエル当局は治安に対する「脅威の芽」を迅速に摘み取ろうとしている。行政拘禁は23年10月のハマスによるイスラエル奇襲を受けて始まったガザ軍事作戦後に急増した。イスラエルの人権団体ハモクドによると、同年9月の時点で行政拘禁に対象となっていた囚人は1200人超だったが、今年1月時点で3300人以上となっている。
国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は行政拘禁について、一般の人々に対する「恣意性と懲罰的性格」が強まっていると懸念を示している。
[時事通信社]