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【大雨から1年】浸水した住宅のカビ対策は? 趣味が生きがい 夫婦の歩みに密着

ABS秋田放送 2024年7月18日 19時9分

去年7月の記録的な大雨では、秋田市で6000棟以上の住宅が浸水被害に遭いました。

その後の生活での健康被害を防ごうと、県立大学の教授が、住宅の調査を続けています。

雨水に浸かったのか、あるいは川の水に浸かったのかによる違いも、調査の中で見えてきました。

県立大学の長谷川兼一教授は、学生とともに、月に1回、秋田市内の浸水被害に遭った地域を訪れています。

気温や湿度が上昇すると、気を付けなければいけないのが、カビの発生です。

去年の8月上旬に床上の消毒を終えた住宅では、ほどなくしてカビが生えてきたため、床下に送風機を置いて、約2か月間、毎日風をあてて乾燥させました。

しかし、春になったらまたカビが生えてきたと言います。

長谷川教授はこの日、専用の機械で、床下や空気中のカビを採取しました。

長谷川教授

「東日本大震災の時に、津波で浸水したお宅をずいぶん調べて、そこで健康上の被害があったものですから、今回、水害についてもそういうことが起きないように、何とか情報発信をしたいなと思ってやり始めたんですけど」

長谷川教授の研究室では、採取したカビの数や種類が時間の経過とともにどのように変化するのか分析しています。

主に内水氾濫で浸水した住宅では、川の水が流れ込んだ住宅と比べると、発生したカビの数や種類が少なかったことが分かりました。

長谷川教授

「雨水なのでそんなに汚れていないというか、川の水だといろいろな微生物がいて、それが入ってくるっていうことになるんでしょうけど、雨水が入って来るので、そんなにカビは増えるような要因が含まれていなかったなかなという、そういう印象」

また、水に浸かった場所の消毒を行っていても、住宅によってはカビの減り方に違いありました。

長谷川教授

「早く復旧のプロセスに入られた方、ちゃんと掃除したりとか早く乾燥、濡れたところを乾燥させるっていうのをやられた方は、比較的カビの数が減っていったのは明らかで。床下にファンを置いて、強制的に空気を循環させて乾燥することが、まずできることかなと思います」

今後、長谷川教授は、様々な消毒液がある中で、何がどの種類のカビに効果を発揮するのか、詳しく調べていくことにしています。

(佐々木勇憲記者)

私は、多くの住宅が浸水被害に遭った秋田市の大住地区で取材を続けてきました。

その中で、自分の趣味を一度あきらめた男性と出会いました。

被害に遭いながら趣味を再び始めようと前を向いて歩み出した男性と、見守ってきた妻の姿を取材しました。

浸水被害が発生してから8日目。

春日光顕さんと妻の房子さんの夫婦に出会いました。

住宅の1階が水に浸かり、当時、2人は2階での生活を余儀なくされます。

この日は、濡れた本の片付けに追われていました。

20年近く趣味で彫刻を続けてきた光顕さん。

主に作っていたのは、仏像です。

親戚や友人が亡くなった時に、その人を想いながら仏像を彫り、届けていたといいます。

その参考にしてきた大切な美術書の数々も、処分せざるを得ませんでした。

この時、光顕さんはもう二度と仏像を彫ることはできないと話していました。

それから約2か月。

春日さんの自宅の中を初めて見せてもらいました。

鍋などの調理器具は、キッチンとは別の部屋に置かれたまま。

リビングの床は早い段階で張り替えることができた一方、キッチンは全体を修復する必要があり、工事開始まで時間がかかっているといいます。

まだ雪が残る2月。

最後に取りかかったキッチンの工事もようやく終わり、普段通りの生活が戻っていました。

房子さん

「いい話しよ。今後今後、これから。いいことなるように、いいことができるように」

光顕さん

「またひと踏ん張りさねばいけねなーと思えばよ」

房子さん

「寝てる暇ないからがんばろ」

季節も進み、家の復旧も一段落した中で、仏像を彫ることを諦めた光顕さんの気持ちも、前を向き始めていました。

先月、再び春日さん夫婦を訪ねました。

趣味の彫刻を一度はあきらめた春日光顕さん。

彫り進めていたのは、仏教の守り神「四天王」のひとつ、「持国天」です。

国を支える「持国天」に、平和や安寧の祈りを込めました。

この日は、仏像の表情を決める、大切な作業です。

春日さん夫婦はこの1年、互いに支え合いながら困難を乗り越えてきました。

房子さん

「あれからもう、お互いに怖い思いはしたんだけど、ひとつの目標か、目標をもって今のところ頑張っていようって。私としてはすべてマイナスでなかったね。考え方も変わったし。人を見る目も変わったし。人方の助けというか、そういうのも素直に受けられる。そういうふうになったのかなっていう気もあります」

水に浸かった彫刻刀を磨き上げ、4月から毎日仏像を彫り続けた光顕さん。

日を重ねるごとに、仏像づくりへの自信を取り戻していきました。

約1年ぶりとなる新たな仏像。

悪いものを寄せ付けまいと厳しい表情をするのが「持国天」ですが、どこか、前を向いて歩み出した光顕さんの穏やかな気持ちも表れているように見えました。

光顕さん

「とにかくあきらめていたんだから・あーもう駄目だなって。一応こう完成してみると、達成感があるじゃないですか。それがやっぱり僕の生きがいですよ」

経験したことのない大雨を乗り越えて、日常を取り戻してきた春日さん夫婦。

これからもこの場所で、共に、歩みます。

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