災害が発生したあとに、住まいや生活の環境が大きく変わったことがきっかけで心や体に負担がかかり亡くなる、災害関連死。
県内では、去年7月の記録的な大雨のあとに亡くなった秋田市の4人が、災害関連死と認定されています。
このうち2人は、大雨から10か月あまり経った今年5月に。
ほかの2人は、約1年後の今年7月に災害関連死と認定されました。
県内での災害関連死の認定は、初めてのケースでした。
審査の結果、認定されなかった人も2人います。
審査から認定までに一定の期間を必要とする災害関連死ですが、国内の過去の事例では、災害発生後しばらく経ってから相談が寄せられ、審査を行うケースも少なくありません。
長期的な対応も想定される中、災害関連死がこれ以上起こらないようにするための対策のあり方は十分なのか。
行政や関係機関の現状と課題を取材しました。
審査の結果を記した文書は、2枚。
その2枚の審査結果を出すため、関係者は、膨大な量の資料を集め、読み解き、検証しました。
秋田市への情報公開請求で開示された資料は、合わせて約700枚。
災害関連死かどうかを審査した過程や、議事録、審査をするにあたって参考にした資料が含まれています。
審査は、今年3月から7月にかけて行われました。
災害関連死かどうかを話し合い、判断したのは弁護士や医師など、5人の審査委員です。
「ケースバイケースでの判定となるので、1回で判定できたり、継続して審議することもあり得る」
議事録や資料の大半は個人情報に関わるため、公開されない部分が多いものの、審査にあたった委員が、慎重に審査を進めたことが伺えました。
また、委員からは、「長期的な対応」を念頭に置いて、今後審査を進めていく必要があるという指摘もありました。
「事例集では3年越えの申し立てなどもあるようである。今回はないが地震や津波では半年後にPTSDで自殺などのケースがあり今回も可能性としては考えられる」
これ以上、災害関連死を出さないように取り組む人たちも、長期的な対応の必要性を認識しています。
8月27日、秋田市役所の会議室に、市の職員や、秋田市社会福祉協議会の関係者が集まりました。
冒頭のみ撮影が許可されたこの会議は、去年の記録的な大雨で被害に遭った市民をどう支援していくかを話し合うことが目的で、去年12月以降、毎週開かれています。
去年から参加し続けているひとりが、被害に遭った人を支援する現場の第一線にいる、戸島健人さん。
戸島さんをリーダーとする秋田市社会福祉協議会の内部にある組織・地域支え合いセンターは、被災した住宅を訪ねて回るなどの活動を続けています。
地域支え合いセンター 戸島健人さん
「一概に災害と関連づけるのは難しいと思うんですけど、やはり訪問している中では、要配慮者、弱者の世帯に関しては、亡くなられているという方はちょくちょくお見受けするので、そういったことでは、何が原因か我々では判断できないんですけども、訪問をしている途中の世帯の中で亡くなられたっていうお話を聞くとやっぱり何かできたんじゃないかなっていう思いはあるんですけども、まぁそこはやはり難しいのかなとは思います」
審査を経て災害関連死に該当した人についても、どういった経緯で亡くなったかを詳しく把握することは困難です。
審査が行われたのは6人。
災害関連死と認定されたうちの2人は、自宅や施設で避難生活を送る中で亡くなりました。
認定されたほかの2人と、認定されなかった2人については、遺族の意向などから死亡するまでの経緯が公表されていません。
戸別訪問を通じて災害関連死を防ぐためには、限られた内容であったとしても、行政と現場がどれだけ情報を共有できるかが課題です。
戸島さん
「被災者に関する台帳とか、被災者台帳というものが、本来であれば整備されるのが一番望ましいと思うんですけど、そこの部分が不足しているのかなという部分はあります。要配慮者であったり生活弱者に対するリストっていうのは支え合いセンターの中で訪問して作っていくっていう形になっているので、最低限の情報提供を(行政から)頂けたらもう少し効率良く回れるんではないかなとは思ってます」
さらに課題となるのは、行政側が、積極的な検証を行うかどうかです。
弁護士 小口幸人さん
「今さら審査会設置の条例を改正する、審査をどうやったらいいのかゼロから勉強する。これは備えていなかったということです。隣の県であれだけ災害関連死がたくさんの問題になっていたのに。岩手県でね」
「東日本大震災以降これだけ全国で災害関連死の問題が起きているのに我が事として考えられない、とらえられない議員さん、自治体さんには民主主義でノーを突きつけるしかないんだと思います」
秋田市の、審査までの対応を厳しく批判したのは、沖縄県の弁護士・小口幸人さん。
東日本大震災のあと、岩手県内の自治体で災害関連死の審査委員を務めた経験を持ちます。
自治体の審査のあり方や、課題について、十数年にわたり提言を続けてきた小口さんは、災害関連死を被災者支援のための教訓にする必要があると訴えます。
小口さん
「災害関連死という中には防げる死があって、その中には現在の法制度・社会制度・自治体の体制の不十分さが表れた事例がたくさん出てきます。だからその事例はたくさんあればあるほど改善点を見つけられるわけです」
「過去の災害は終わっていないんです。昨年の災害。ほとんどの災害関連死、東日本大震災の統計でも数年後に亡くなるんです。今生きている人が死なないための対策の充実の方にまずチカラを入れるべきだし、そのためには災害関連死がもっと埋もれていないか、市町村がそれぞれ申請を促すのが今やるべきことです」
小口さんが提案するのは、例えば死亡届の提出に訪れた市民に、災害関連死を周知する方法です。
具体的な事例が書かれた冊子を渡したり、相談体制を知ってもらったりすることで、多くの事例を把握することにつなげられると考えています。
秋田市は、災害関連死をどう教訓にしていくのか。
穂積市長は、まずは行政側が積極的に被害に遭った人の状況を把握する体制づくりを強化することから始める考えです。
秋田市 穂積 市長
「すべて我々行政が対応できるかというと、ひとりひとり状況違いますし、持っている疾患も違うので。しかも急変したりするので。できるだけその方々にいち早くアプローチして、被災された方々に行政が入り込んでいって、そして聞き取りをしてね、少しでもその人たちの不安を取り除く。こういう業務にまい進しています」
避難生活の際の環境整備や、災害発生後の支援策などが十分かどうかを常に見直して、対策を講じていくことが行政側に求められます。