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【特集】まもなく開村60年の大潟村 離農や後継者不足など課題が浮き彫りに…先行き不安な食料の安定供給継続を目指す男性経営者の取り組み

ABS秋田放送 2024年9月25日 18時1分

戦後の食糧不足を背景に大規模農業を実践する『モデル農村』として誕生した大潟村。来月1日で開村からちょうど60年を迎えます。

開村を前に開かれた『干陸式』。干拓を指導したオランダのヤンセン教授に感謝を伝える村民の姿などが収められています。その後、コメ余りを受けて進められた減反政策など時代に翻弄された大潟村の農家たち。この10年で38戸が離農し、後継者が決まっていない農家も50戸にのぼっているといいます。

全国的に急速に進む後継者不足や気候変動を背景に、論戦が進む自民党の総裁選でも各候補者が食料の安定供給=いわゆる『食料安全保障』を重視する姿勢を見せています。

農業者人口が急速に減少する中どうすれば日本の食を守れるのか?また農業経営を維持できるのか?食料の安定供給に向けた取り組みがいま県内で進んでいます。

「これが炊飯工場ね。ここでコメを入れて洗って、それで炊飯してシールを貼って。それをそのまま包装ラインのほうに流れて行って」

いまから54年前の1970年、大規模農業に憧れて新潟県から大潟村に移り住んだ涌井徹さん。日本人の主食であるコメにこだわってきました。この日は大潟村からほど近い男鹿市の小学校の跡地を訪れました。

涌井徹さん

「これを全部使うというのはこれもなかなかね。やっぱり相当大きな事業でなければ使えないものね」

涌井さんがいま手がけているのは需要が急増しているパックご飯の工場。校舎や体育館を丸ごとパックご飯の工場に改装します。

事業費は36億円で年間5000万食のパックご飯を製造します。涌井さんはこれをモデルケースにして新たな農業経営のあり方を秋田から全国に発信していく考えです。

涌井徹さん

「農業者人口が減ることによってどんどん面積が集まってくる。もう処理しきれない。しかし農業法人が10社20社集まって連携して地域の学校(廃校)を使ってここにライスセンターを作る、加工工場を作るとしたらいっぱいあるわけチャンスが。一人ではできないけどみんなが集まればできる。農業は1人で地域を守れないけどみんなで守るようにするにはやっぱり産業にしないといけない」

記者Q:家業ではなくって?

涌井さんA:事業にしないとね

涌井徹さん

「私も今度76(歳)でしょ、これが稼働する時には77になるからね。第3、第4(の工場)は無理かなと思いながらね、ただどうしても応援してくれと言われればね『義を見てせざるは勇無きなり』だから、頼まれれば嫌と言わない」

自民党総裁選 立会演説会での石破茂氏

「いまのままでいけばあと80年で日本人は半分になると言われている。人口がどんどん減っていく。本当にこれでいいのか?農業はこのままでいいのか?」

実質的にこの国の新たなリーダーを選ぶことになる自民党の総裁選。各候補者は食料の安定供給=いわゆる『食料安全保障』を重視する姿勢を見せ論戦が続いています。

新潟県長岡市にて 小泉進次郎氏

「すごくおいしい米粒がしっかりしている」

北海道で自動運転のトラクターを視察する河野太郎氏

「何もせず走って行ってぐるっと回転してそういう時代がもう来たんだなというのが」

北海道にて小林鷹之氏

「新たな技術を駆使したスマート農業・漁業・林業どんどん展開していっていただきたい」「それをしっかり国としても支援する」

農業者人口は2000年からの20年間でおよそ半減しました。平均年齢は70歳に迫っていてこの先の10年から20年後を見据えると農業者人口はさらに減少し、少ない経営体で日本の農業を支えていかなければなりません。

どうすれば安定的な食料生産が維持できるのか?パックご飯の製造と並行して涌井さんが取り組んでいるのがタマネギの産地化です。

涌井徹さん

「日本中の農家が8割も9割もやめる環境にいまなっている」

記者「その時大事なことは」

涌井徹さん

「その地域の農業を農業基盤として残していくためにはどうしたらいいのか、そう考えていく必要。守るんじゃなく攻める守ろうという発想はダメ。農地を守るんだ農家を守るんだじゃなくって、"農地を使ってどういう攻めの経営ができるか"」

年間を通して需要のあるタマネギ。東北での産地化は輸入品の置き換えだけではなく北海道、西日本の主要産地の端境期に出荷できるメリットがあります。

また、ほかの農作物にも応用できる機械化・自動化・効率化の検証を進め、農業法人の経営を黒字化させるノウハウを積み上げます。

涌井さんが進める「攻めの農業」。

農業の生産力維持のためには他の産業や大手企業がもつ先端技術が欠かせないと考え、実証実験への参加を呼びかけました。

みらい共創ファーム秋田 涌井徹社長

「日本の農業における最大の課題は、生産する人がいなくなる様々な企業の方々に参加して頂いて、農業というものを産業としてどのように見れるか、そういういろんな知恵を貸していただきたいと思っています」

涌井さんの呼びかけにいち早く名乗りを上げたのは東京に本社を置く大手商社の双日です。

双日 藤本昌義前社長(当時)

「農家が高齢化していてノウハウ・技術が継承されていないということ。 これをいまから始めないと、たぶん農業そのものの技術・経験が雲散霧消してしまって、また一からやり直すとすごい年月がかかるような代々引き継がれてきたようなものだと思いますし、そういう技術というのは」

涌井さん

「日本農業はいま従事者不足によってある意味で崩壊に向かっている。農業は一子相伝だから農業は滅びてきた。農業は農家でなくって農業に興味がある人が参入すべき。一般の企業は全てそうなんだから」

この日、取り組みに参加を表明した双日と涌井さん、それに由利本荘市の農業法人などが最新のタマネギの選別作業を公開しました。熟練した技術が必要なタマネギの選別に山梨大学が開発したAI=人工知能を使った機械を試験的に導入して、作業に必要な人員を4人から2人に半減させる取り組みをしています。

双日由利農人株式会社 三浦徳也さん

「会を通して(異業種の)仲間が集まってくれる。応援してくれる仲間が増えるというのが何よりも農業の応援になりますし、立ち上げて動いてみてどこに課題があるのか。まさにこういう技術も若い子たちが挑戦できる技術であってほしい。それを引き継いでいくその先の世代が希望が持てる農業であってほしい」

涌井さん

「離農速度はいままでは農家個々の離農。いまは農業法人の離農になるわけね。その先にあるのは農業の問題ではない、国民食糧の安定供給ができなくなるだから、いま農業問題は国民の問題である。誰もいなくなったときにもう間に合わなくなる。それを早く先に先に考えていかなきゃいけない」

76歳を迎えたいまも農業の可能性を追求している涌井さん。食料を安定的に生産し続けるため、新たな農業経営のモデルを“開拓”しています。

涌井さん

「大潟村の60周年というのは入植の時は国が作った基盤整備というモデルの10町歩(ヘクタール)、広い面積でモデル農業を国が作った。しかし入植して50年60年経って、新たな自分なりのモデル農業というスタンスをどう構築できるかが大潟村の将来を決めるわけね。いままで大潟村は堤防の内側の議論をしていた訳、いま大潟村は外に向かってやる非常にチャンスがある」

農業経営の安定化は私たちの食の安全・安心にもつながります。涌井さんの取り組みは県内はもちろん日本の農家の担い手不足の解消につながっていくことを期待されています。

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