去年7月の記録的大雨で工場が浸水し、商品の製造・販売を休止していた秋田市にあるかまぼこの老舗が、13日、1年4か月ぶりに販売を再開しました。
一時はかまぼこの製造を諦めたものの、多くの客からの励ましを受け、伝統の味を守り継いでいくことを決意した店主を取材しました。
江戸時代から商人の町として栄えた、通町商店街。
その一角に、県内で唯一のかまぼこ専門店があります。
創業97年、宮城屋蒲鉾店です。
卵をふんだんに使い、しっとりとした食感に仕上げた伊達巻が人気で、地域の人たちを中心に、長い間、愛され続けてきました。
4代目の後藤雅和さんは、約8年前にこの店を引き継ぎ、伝統の味を守ってきました。
後藤雅和さん
「練る時間とか温度によってコシの強さ決まるんですよ。そこですね」
100年近くにわたって受け継がれてきた、老舗の技と味。
しかし、去年7月の記録的な大雨で、店は存続の危機に立たされました。
秋田市の中でも特に被害が大きかった、楢山大元町。
内水氾濫の影響を大きく受けて、地区の6割あまりの住宅が浸水し、1階部分がほとんど水に浸かったところもありました。
この地区にあった宮城屋のかまぼこを製造する2つの工場には、高さ1メートルほどまで水が入り込みました。
かまぼこづくりに欠かせない機械の多くが使えなくなり、被害額は1億円を超えました。
「なんとなくは、まずいなという感じはしてたんですけど、入ったらこれはとんでもないことになったなっていう、それが一番ですね」
「苦渋の決断という感じでしたね。まぁ被害が大きくて。再建するにも額がすごかったので。そこもネックになりました。」
一度は、店の長い歴史に幕を下ろすことを決めた後藤さん。
その後、店の飲食スペースで、そばやうどんの提供を始めました。
すると、毎日のように客から励ましの言葉をかけられ、次第に復活を望む手紙やはがきも届くようになりました。
「すごくうれしかったです。これだけ思っていただいて、宮城屋のかまぼこの味を愛してもらっている実感が湧きましたね」
宮城屋の味を待ち望む、みんなの期待に応えたい。
後藤さんは今年に入ってから店の中を改装し、規模の小さい工場を作りました。
製造で使う機械はすべて新しくしたものの、作り方はこれまでと変わりありません。
ただ、いままでの工場と比べて作業スペースが狭く、作ることができるかまぼこの数は1日に100個ほど。
これまでの8分の1ほどに減りました。
それでも、長く親しまれてきた味は、いまも昔も変わりません。
「ばっちりです。ばっちりです」
「冷めるともっと、弾力出るんですけど、あったかい段階でもこれぐらいあれば」
「お客さまの、早く笑顔が見たいですね」
そして13日、約1年4か月ぶりに、かまぼこの販売を再開しました。
「いらっしゃいませー」
早速、年末年始のために予約したいという人が店を訪れました。
「(来月)30日にお持ちになってお越しください。営業は10時から5時までになっておりますので。そのようにお願いいたします」
「良かったです、また食べられるようになって」
その後も、販売再開を待ち望んだ人たちが次々と来店しました。
13日に買って、早速食べるという人も多く、用意したかまぼこはどんどん売れていきました。
「しつこいくらいに、やらないのやるのって言って申し訳ない」
「とんでもございません!小さいながら再開させていただくことになりました」
「母も喜んでおります」
「ありがとうございます」
「とにかくほかのはやっぱりだめで、ここ発売するって言ったから、即今日、走ってきました」
「大好き、大好きです」
「3種類、伊達巻と寅巻と巴巻」
「楽しみが増えましたよね」
店の営業は月曜から土曜の午前10時から午後5時まで。
いまは3種類のかまぼこを販売していて、今後さらに種類を増やしていくことにしています。
取材していて本当にたくさんの人たちに愛されている店だということを強く感じました。去年7月の記録的大雨からもうすぐ2回目の冬を迎えますが、今もなお生活の再建や復旧に向けて歩みを進めている人がいます。これからも取材し続け、伝えていきます。
【報告:佐々木勇憲記者】