今年、県内でクマに襲われけがをした人は9人で、過去最多となった去年の70人を大幅に下回っています。
県内では、去年の被害と大量出没を受けて、各地で対策が進められてきました。
県警察本部は、今年度、クマから身を守るため、新たな装備品を導入。
鹿角市は、クマを集落に引き寄せてしまうクリやカキなどの伐採に補助金を出し、これまでに約700本が切り倒されました。
去年のクマの大量出没から何を学び、次へどう備えていくべきなのか。
去年、自宅の敷地でクマに襲われた北秋田市の男性のその後を取材しました。
湊屋啓二さん
「まだね、やっぱり痛いんですよ。特に最近、頬の傷とか頭がビリビリ痛いというのは、全然変わらなくって。それから、目も目玉はやられていないんですけども、こう爪が入って、左目が涙目になっちゃって、しょっちゅう涙出るようになっていますね」
北秋田市で菓子店を営む、湊屋啓二さん。
去年10月、クマに襲われ、顔や頭を中心に30針以上を縫う大けがをしました。
当日、早朝から北秋田市の市街地に現れたクマは、立て続けに4人を襲い、けがをさせたあと、姿が見えなくなっていました。
昼前に湊屋さんは外出しようと自宅の敷地にある車庫兼倉庫のシャッターを開けたところ、中に入り込んでいたクマとバッタリ遭遇、背後から押し倒されたといいます。
それから1年。
傷自体は目立たたなくなったものの、いまだに頭や顔に痛みを感じることがあるといいます。
湊屋さん
「(どこかで)区切りというよりも、多分死ぬまで痛いんだろうなと思いますし、ビリビリこうね、痛い感じが残るし、傷深いところは相変わらず痛いですし、恐らくクマに襲われて顔とか頭をやられている方は同じような感じじゃないかと思うんですよ」
クマに襲われた影響は、仕事にも及んでいます。
被害の直後、救急車を呼ぶなどの対応にあたった湊屋さんの妻は、またいつ市街地に現れるとも分からないクマの存在を恐れ、その後、一度も店を開けることができずにいます。
湊屋さん
「女房が店番をしていますので、女房が店を開けたくないってそういう話になっていて」
「開けられない状態なんですよね」
今年はクマの目撃の数は少なかったものの、5月には自宅の近くで再びクマが目撃されています。
記者
「(救急車が来るまで奥さんと)窓越しで会話していたんですよね」
湊屋さん
「頭皮がこれだけ開いて、流血、血だらけになっているのを見ていますから、最初はそういうのが相当影響してトラウマになった影響でね」
「いまになってもまだ『開けてくれ』と何回かお願いしたんですけど『開けられない』ということなんで」
現在は近くの道の駅に名物のバター餅を納品するなどしてしのいでいる湊屋さん。
店舗での営業再開は未定だということです。
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担当:川口大介記者
被害に遭った直後から実名で実態を訴えている湊屋さんのもとには、クマに襲われ、けがをした同じ境遇の人が訪れたり、電話をかけてきたりすることがあるそうです。
「痛みが治まらない」といった相談や「行政の見舞金はあるのか」といった問い合わせも寄せられたということです。
去年の被害を踏まえて、今年度、北秋田市が、県内で真っ先に、その後、県も見舞金の支給を制度化しましたが、湊屋さんは「被害者同士が悩みや境遇を相談し合える被害者の会のような団体も必要ではないか」と述べています。
また、去年は2000頭を超えるクマが駆除されたことへのクレームも問題となりました。
県への情報公開請求で明らかになった、クレームの内容をまとめました。
「平気でクマを殺す秋田県」「自然保護課は名ばかり動物虐待課」、さらに「お前たちは最低の仕事をした」といった職員をなじる内容も見受けられます。
去年の出来事を教訓にして、県は、電話の会話音声を自動で録音するシステムを試験的に導入するなどして対策を進めています。
今年は山の中のエサが豊富だったことなどから、クマの目撃も、人が襲われる被害も減りましたが、エサ不足になれば確実にクマはまた人里に出没します。
「今年はクマが少なかったから良かったね」ではなく、去年の出来事を『教訓』としていまのうちにできることから対策に取り組む姿勢が求められます。