少年鑑別所についての特集です。
高い塀に囲まれた少年鑑別所には、非行を起こした少年たちが入ります。
同じ法務省が管轄する施設に少年院がありますが、担う役割は大きく異なります。
少年鑑別所は、非行を起こした少年が、家庭裁判所の審判を待つ間、一時的に入所する施設です。
一方、少年院は、審判の結果、具体的な指導や教育が必要と判断された少年が送られます。
なお、重大な罪を犯し、大人と同様の刑事裁判を受け、実刑判決を言い渡された場合は、少年刑務所に送られます。
県内では、秋田市内に少年鑑別所がありますが、先週、5年ぶりに、地元の住民や報道機関などを対象とした施設内の見学会が開かれました。
時代の変化に合わせた対応をとりながら少年と向き合おうとする施設の取り組みや、内部の様子を取材しました。
季節の移ろいをこれまで何度も何度も見てきたであろう、この建物。今から51年前に完成しました。
職員が施設内で食事を作り、提供する時代もありましたが…
所長
「時代の流れで『弁当給食』に変わっていったり…」
時代に合わせ、変化を遂げてきました。
所長
「(マンガは)なるべくは人気があるようなものを…」
記者
「あ、鬼滅の刃とか」
所長
「そうですね、ワンピースとか、えぇ」
時代が変わっても絶えることはない、非行。
少年たちが自分と向き合い、正しい道に進むための手がかりを大人とともに見出す施設が、少年鑑別所です。
先週土曜日、2019年以来5年ぶりとなる一般公開が行われた。秋田少年鑑別所。
事前に応募した約20人が、施設の見学などをしました。
参加者が見学したのは、少年たちが1日の大半を過ごす部屋。
日々の生活を振り返るための日記を書いたり、食事をとったりするために使う机のほか、部屋の隅には、トイレもあります。
広さは、6畳ほど。
娯楽のない部屋かと思いきや、テレビが1台、ありました。
ただ、見ることができるのは、施設側が選んだ歌番組やお笑い番組などで、映るのは、一日のうち限られた時間だけです。
「じゃあ次はグラウンドご案内します、どうぞ」
見学会では、施設の中だけでなく、屋外の運動場も公開されました。
「グラウンドではバスケットゴールがありまして、バスケットをしたりとか、あとはサッカーとか野球とかですね。あとは周囲の散歩とか、場合によってはランニングとかしております」
街とは高い壁で隔てられていますが、少年たちが気分転換するための、貴重な憩いの場です。
少年たちが運動を行うのは、朝食を終えた、午前9時。
平日は週3回、運動後に入浴もできます。
午後は、施設側が与えた課題の貼り絵や作文のほか、職員との面接などに臨みます。
その後、5時には夕食をとり、7時からは、部屋でテレビを見ることができます。
少年たちの実際の生活ぶりは、施設側の説明を手がかりに想像することしかできません。
それでも、参加者にとっては、強く印象に残ったようです。
参加者
「もう少し遠くからでもいいから、運動してる姿とか見られればいいけど…なぁ?そうすればまた親近感わいていいけど。立派な競技場あるのに、何も使ってない。今日みたいな小春日和、ちょっとでも体操やって、ボール投げてるとこ…でもまずな、ありがとうございます」
記者
「皆さんは地元の八橋の…」
「町内」
周辺には飲食店などもある、秋田少年鑑別所。
窃盗や暴行などの非行を起こした少年たちが、家庭裁判所の審判を待つまでの間、4週間ほど入所します。
審判の結果次第では、施設を離れた後、少年院に収容される場合もあります。
少年院が、家庭裁判所の審判の結果を受けて、生活態度への指導や、職業訓練を行う場所である一方、少年鑑別所は、生活の観察や面接を通じて、少年たちの性格や行動を把握し、審判を控えた家庭裁判所にその内容を伝える役割を担います。
秋田少年鑑別所 伊藤広行 所長
「実際に処分を執行するという位置づけにあるのが少年院。少年鑑別所というのは、まだ処分が決まっていない、これから審判を始めるよという前の段階。少年をアセスメント、どういう少年かを見立てて、この少年についてはどういった処遇の方針、指針でいけばいいのか、そういったところを見立てるところが主な役割」
少年の更生に関わる業務に30年近く携わってきた伊藤広行所長は、非行の内容が、時代とともに変化していると感じています。
伊藤 所長
「昔にはなかった…例えばネット社会ですので、詐欺とかですね、こういったもので入ってくる少年も、ここ十数年の間はよく目立つなと、ほかの施設で私勤務してても感じるところではある。昔はですね、例えば少年同士が共犯で何か犯罪をするというのがある、ただこれがですね、段々少なくなってきたかなと。ひとりで単独での犯罪、例えばかなり昔であれば暴走族とか。二人以上で行う犯罪というのがかなり少なくなってきた」
この10年、秋田少年鑑別所に入所する少年は、減少傾向にあります。
施設にある部屋がすべて埋まることは無くなったといいます。
過去10年間の入所者の推移をみると、最も多かったのは2014年の33人。
その後は減少傾向となり、2018年から去年までの間は、1年間に入所する少年の数は、15人未満で推移しました。
ただ今年は、今月16日の時点で15人。
過去5年の水準をわずかに上回っています。
入所する少年の数は限られていても、施設には、やらなければいけないことがあります。
例えば、時代の変化に応じた細かい対応がその一つ。
所長
「いまの…人気があるものをリサーチして…毎年少しずつこう買い足して。スパイファミリーとか」
記者
「スパイファミリーありますか、なるほど」
6年前の漫画本の棚と比べてみると、ラインナップは、当時から大きく変わっています。
少年たちの食事も変わりました。
かつては調理専門の職員が常駐して作ったり、秋田刑務所から提供を受けたりした時期もありました。
ただ、作業の手間や費用を考慮した結果、十数年前からは、3食とも、民間業者の弁当や菓子パンに切り替わっています。
時代の変化への柔軟な対応と、運営の効率化を両立しながら、少年たちの更生の手がかりをつかまなければなりません。
秋田少年鑑別所は、そうした大人たちの様々な苦労も、少年たちに感じ取ってほしいと考えています。
伊藤 所長
「青少年の時期ですと、何事も、何か当たり前のように食事が出てきたり、当たり前のように衣食住が用意されていたりとかですけども、実はそれは多くの人の苦労があったうえで成り立っていることでありまして。すべては当たり前でない。ありがとう、感謝の気持ちを大事にすることが、少年の健全育成につながっていくのかなと感じております」
秋田少年鑑別所は、非行や少年の育成に関する市民からの相談を受けつける体制も整えていて、今後も施設の役割や意義を広く伝えていきたい考えです。
「撮影はもう、ええでしょう」…取材記者のアトガキ
厳重なセキュリティ管理のもと運営されている施設ゆえ、
こんなことを言われることも想定しておりましたが、
結果的に様々な場所、設備の撮影が許可され、
思った以上に内部を詳細に伝えることができたと感じています。
少年たちの食事である弁当も、当初撮影を予定していたものではなく、
取材中、偶然目にして急きょ撮影を打診したものでしたが、
施設側から撮影を拒否されることはありませんでした。
少年鑑別所には報道機関や市民だけでなく、
毎年、有識者で構成される「視察委員会」が施設を訪れて
運営への提言を行っていて、施設側は可能な限り、
施設内の環境改善を図っているようです。
この視察委員会の報告内容は法務省のHPで公開されています。
少年鑑別所は、施設の内部、概要、取り組みを可能な限り
オープンする方針を今後も続けていくと思いますが、
例えばもう一歩踏み込み、
施設運営に対して少年たちがどう感じているのか?や、
少年たちのその後の人生の中で鑑別所がどのような役割を果たしたのか?など、
施設で生活する「当事者たちの声」を知ることができれば、
施設の意義、役割をより深く考えられるほか、
県民・市民の意見も広く反映できる施設や環境づくりができるのではないかと考えました。
取材:佐藤久人