再入札に向けて県議会でも議論が交わされている、新たな県立体育館についてです。
県が1年以上をかけてはじき出した総事業費は、254億円。
しかし、先月1日の入札の不調を受けて、19日に改めて示した数字は364億円。
この間わずか18日、県は「資材や人件費の高騰が想定以上だった」と説明していますが、議員からは県の見通しが甘かったのではないかという指摘も相次いでいます。
事業費の急激な増加の背景には何があるのか。
建設業界のいまを取材しました。
秋田ノーザンハピネッツ 水野勇気 社長
「当初計画での4次審査合格は困難になりましたということをお話させていただきます」
「必ずや12月のBプレミア審査へ向けてしっかりと動いて合格を勝ち取りたいと思いますので」
先月2日、4年後に始まるトップリーグへの参入に向け、異例とも言えるスピーチを行った、秋田ノーザンハピネッツの水野勇気社長。
その背景にあるのは、新県立体育館の入札不調でした。
県スポーツ振興課 樋口和彦 課長
「すべてのグループが入札辞退の意向を示したことから、入札を取りやめることとなりました」
県が1年以上にわたって準備を進めてきた、新県立体育館の整備運営事業。
入札時の総事業費は、254億円でした。
秋田ノーザンハピネッツのホームアリーナとして使われることになっていて、2028年秋までの完成がバスケットボールの新たなトップリーグ、Bプレミアへの参入基準の1つとなっています。
しかし、事前に入札への参加を表明していた4つのグループすべてが辞退。
ハピネッツのBプレミア参入もこの時、不透明な状況となりました。
「資材価格や労務費の高騰が想定以上だった」として、県が新たに示した総事業費は、364億円。
入札の取りやめからわずか18日後に、110億円を増額した予算案を示しました。
立憲 小原正晃 議員
「254億円の見通しが甘かったのではないかと言わざるを得ない」
みらい 三浦英一 議員
「我々県民の大事な税金からのことであって、そんなに簡単にね『じゃあ110億で』『あぁそうか』と納得できる問題ではない」
県民は。
20代 男性
「110億っていうのがそもそもアップするというのがどこからはじき出したのか分からないですけどね。いきなりちょっとさすがに金掛け過ぎじゃないかと思いますよね、これは」
40代 女性
「やっぱり高すぎると思いますね。ちょっとその値段違うところに使ってほしいかなって。子育て世代なので、子どもとかに使ってほしいですね」
10代 男性
「吹奏楽やってるんですけども、マーチングとかもいずれ、昔は県立体育館で秋田の大会やってたと思うんですけど、いずれは音楽のものも新しい県立体育館でできるんじゃないかと思うので、ちょっと高い気もしますけど、しょうがないかなと思います」
70代 女性
「いま材料費も値上がってるし、どうなのかしらね。でも建ててもらわなきゃ困るしね、微妙な…仕方ないですよね。建ててもらわなきゃ困ります」
資材価格などの高騰の背景のひとつとして、首都圏を中心に増えている開発事業を挙げた佐竹知事。
佐竹知事
「スーパーゼネコンの役員に友人がいるんですよ。聞いたらね、200億300億ね、地方の(公共事業)ね、手を出さないって。東京は1000億2000億1兆円の事業がゴロゴロある。これも奪い合い、資材と人材」
建設資材とそれに関わる人材、両方の奪い合いが起きているという建設業界。
沢木組 大山武さん
「ここはプレイルーム。絵本読んだり何だりって感じですね」
来年4月に開園予定の、男鹿市にある認定こども園の建設現場です。
鉄筋コンクリート造りで、総事業費は18億5000万円。
当初は今年4月の開園を目指していましたが、1回目の入札が不調に終わった影響などで、1年遅れることになりました。
背景にあるのが、資材価格の高騰です。
沢木組 大山武さん
「コンクリートの値段が3年前に比べて1.5から1.6(倍)とか、そのくらい高騰しているような感じです。コンクリートだけでなく、鉄筋すべてにおいて資材は高騰しております」
合板も以前の倍近い価格に。
資材価格の高騰で、利益の確保は厳しい状況だといいます。
沢木組 大山武さん
「特に外国製品だと、時々ストップしたりするんですね。多分わざとだと思うんですけど、流通をそうすれば値段上がりますよね。品物が無いので。そういう関係もある時もあります。なんで?って時もありますから(動きが)読めないです」
高騰しているのは、資材価格だけではありません。
産業廃棄物の処分費用など、ありとあらゆる経費が掛かり増しになっているといいます。
沢木組 沢木雄一 専務
「いまは月単位で物価が上昇していますので、本当に積算時の金額は読めないっていうのが正直な感想です」
資材の種類や数量などをリストアップし、工事に掛かる費用を予測する積算。
20年以上、担当してきたスタッフも、現在の状況は異常だと話します。
沢木組 畠山進さん
「見積もり出してすぐゴーサイン出ればいいんですけど、半年後とか1年後とかに前回出した見積りでって話来てももうできなくなったりしてます」
人材の奪い合いも激しさを増しています。
人手不足のため、職人の確保は綱渡りの状態だといいます。
沢木組 大山武さん
「本当に人手不足です。一番少ないと言われているのが、壁きれいになってるんですけど、昔からある日本の左官工事。これの職人さんは皆無に近い」
こちらの現場では、外国人材も受け入れているといいます。
人手不足は、建設会社が手掛ける土木工事にも影響を与えています。
この会社では、河川や道路の改修なども行いますが、仕事を取りたくても取れない状況だといいます。
沢木組 沢木雄一 専務
「現場で働く職人さんが不足していますので、私たちが仕事を取っても協力業者いないと、こういう状況で、仕事が取れないということは県全体でも増えていると思います」
県内では、人手不足が原因とみられる入札不調も相次いでいます。
秋田市では、去年から今年にかけて災害復旧関連の41件の入札が不調に終わりました。
そのひとつが、去年7月の記録的大雨で護岸が崩れるなどの被害が出た、秋田市を流れる仁別川です。
今年5月に復旧工事の入札が公告されましたが、応募した事業者はゼロ。
秋田市は、予定価格を上げたり、参加要件を緩和したりして、さらに2回入札を公告しましたが、結局応募はなく、工事は取り下げられました。
崩れた護岸の側にあるのが、水道水を供給する施設です。
地元の住民は、早期に復旧工事を行って欲しいと訴えます。
地元の住民
「集中的に降られれば、一瞬にして流れてしまう。そういうことも考えれば、早くやらないとさらに大きい被害になってしまう可能性がある」
秋田市は、予定価格などを見直して、なるべく早めに改めて入札を公告することにしています。
専門家は、人手不足の解消に向けた取り組みとともに、日本の入札システムそのものの見直しが必要だと指摘します。
東京都市大学 五艘隆志 准教授
「そもそも論から申し上げてしまうと、予定価格というものに上限拘束性がかかっていて、そこから1円でも超えたものは失格になるシステムそのものが限界なんだと思います。国際的にもまれなシステムということでございますので」
その上で、民間業者が提示した見積額の妥当性をチェックする機能や体制の整備が、事業を発注する県や市町村に必要だと強調しています。
新たな県立体育館の整備費として、県が増額した110億円については、いまの県議会で今後さらに議論される見通しです。
なお、Bリーグの島田慎二チェアマンは、先月、今月26日までに再入札が公告されることが、ハピネッツのBプレミア入りに向けた条件のひとつになるという認識を示しています。