記録的な不漁となった今シーズンのハタハタ漁。加工品にも大きな影響が出ています。
正月や、祝い事の時などに食べるハタハタ寿司。調味料を加えた酢にハタハタを漬け込み、麹やニンジンなどと一緒に発酵させてできる郷土料理です。
ハタハタの不漁で、原料集めに苦労しながらも秋田の大切な食文化を守りたいと奮闘する水産加工会社を取材しました。
八峰町八森にある水産加工会社「鈴木水産」。鈴木勇さんは3代目の社長です。
「鈴木水産」は、様々なハタハタの加工品を製造・販売しています。
なかでも「ハタハタ寿司」は看板商品のひとつです。
自慢のハタハタ寿司。少しだけ試食させてもらいました。
田村アナウンサー
「うんまーい。この酸味大好きなんですよ。でも何て言うか柔らかい酸味ですよね。酸っぱすぎないっていうか… おいしい」
その「ハタハタ寿司」は手作業で作られます。
1978年に販売を始めおよそ半世紀作り続けてきたハタハタ寿司。
鈴木水産では酢や調味料で味を調え、ニンジンやショウガを加えます。
酸味と旨味が加わったハタハタにあきたこまちを炊いてまぜ合わせていきます。
鈴木勇社長
「最盛期の頃は毎日でしたね」
田村アナ
「いまは週いくつ?」
鈴木社長
「週2です。週2何ですけどほかの業務もいっぱい増やしてきてますので」
最後に、45キロの重しを乗せて冷蔵室で熟成させて完成です。
しかし、漁獲量が大きく影響し、製造するハタハタ寿司の量は年々減り続けています。
鈴木勇社長
「もういろんな地区で、ほぼゼロのような状態ですね。以前は青森でも取れてました。山形でも取れてました、それも…あんまいい話は聞かないです。要はその加工原料としてはなかなか集まってこれないですねハタハタが。いやあ正直この先のことを考えると危機的問題かなと言う風には思います」
漁獲量減少の中 加工会社の工夫は…
最盛期には1年で2万トンを超えていた県内のハタハタの漁獲量は1976年から急激にダウン。資源保護の禁漁期間が明けてからは一時的に回復したものの…ここ10年の減少は著しく、今シーズンはわずか13.9トン。最盛期の0.1%=1000分の1にも届きません。沖合でも沿岸でも取れなかったハタハタ漁は危機的な状況となっています。
一方で、鈴木水産ではある程度の量のハタハタが確保されているように見えます。
そこには、こんな「備え」がありました。
鈴木社長「こちらですね」
田村アナウンサー「さむっ!寒い… あ、これハタハタですか」
鈴木社長「ちなみに中はマイナス30度です」
商品の半分が、ハタハタを原料としている鈴木水産。鈴木社長は十年以上前から、資源の減少を感じ、ハタハタをいわば“貯金”する冷凍保存を計画的に進めてきました。
鈴木水産 鈴木勇社長
「こういうことがあると大変なので、突発的な注文とかも勿論ありますので、ある程度"2年分ぐらい"は在庫しておきたいと、原料の状態で。ただそれがそういう状況にもなってきてないということですね。これはもう本当にわずかです。残っているのは」
業務用の冷凍庫は家庭の冷凍庫より大幅に低い温度に設定することができるため、鮮度を保ちながら、「より長期間」保存できます。それでも、数年が限界です。
鈴木勇社長
「なので、いまある少なからずの冷凍を、まあちょっとずつ使いながら凌いでいくような形を取って行かないと厳しいと」
今シーズン県内の漁港からは仕入れなし…親から受け継いだ会社と秋田の食文化を守るために 社長の決意
ハタハタは加工品より鮮魚としての出荷が優先されます。鈴木水産が今シーズン県内の漁港から新たに仕入れたハタハタはゼロ。
隣接する青森からも、ある程度仕入れていますが
今年はその青森のハタハタの漁獲量も大幅に減りました。
このまま“貯金”を切り崩しているだけでは、2年後にはハタハタ寿司が作れなくなるといいます。
父の實さんが1960年に鮮魚店として始めた『鈴木水産』。鈴木勇社長が生まれた年に、加工業も始めました。
父・母と受け継いできた会社。そして、秋田の大切な食文化を後世に残していきたいと鈴木社長は考えています。
鈴木水産 鈴木勇 社長
「いろんな地域でハタハタって揚がってきますので、それを何とか買い付けして、ハタハタ寿司を作って行きたい ずっと作って行きたいです。資源は相当少ないかもしれないですけれども、絶対切らしたくはないですね…」
田村アナウンサー
「それはなぜそういう思いになるんですかね」
鈴木社長
「……いやあなんでしょうね。やっぱ秋田県人のDNAですかね?ハハハハハハ」「絶対欲しいんです。食べたいんです。私1人になっても作りますよハハハハ」
ハタハタの仕入れ値は安かった頃に比べると10倍になっているそうです。
しかし商品の値段を10倍に出来るかと言うとそうはいかないため、少しずつ値上げをしているということです。
県内でハタハタ寿司をつくっているほかの業者からも、原材料であるハタハタはもちろん、コメも容器も輸送費も上がっているので本当に、苦しいという声が聞こえてきています。
資源も、文化も、「守り続ける」為には大きな労力が必要な時代になっています。
ABSテレビでは2月8日に特別番組「消えゆく県魚~ハタハタを追う~」を放送します。