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AIが道案内? 全盲のeスポーツ選手がChatGPTをテスト

AFPBB News 2024年9月1日 12時0分

【AFP=時事】全盲のeスポーツプレーヤー「真しろ」さん(26)は音を頼りに対戦型格闘ゲーム「ストリート・ファイター(Street Fighter)6」の対戦相手を打ち負かす。しかし、外出時には同伴者に頼らざるを得ないことも多く、将来的には、障害者の補助として注目を浴びている人工知能(AI)によって一人旅が夢でなくなることに期待を膨らます。


「真しろ」とは藤本昌宏(Masahiro Fujimoto)さんのプレーヤーネーム 。藤本さんは、小眼球症で生まれつき目が見えない。6月、東京都内の競技場で開催されたパラeスポーツ(eパラスポーツ)のイベントに参加するための道案内役として、対話型言語AIの最新モデル「ChatGPT-4o」を試してみることにした。


「支援者や見える友人がいれば一緒にスタジアムやイベント会場へ行く。でも一緒に行けないこともある。たまには一人で行きたいなと思うこともある」と藤本さんは言う。


「だから支援を(自分のニーズに)カスタマイズできるところが、チャットの技術を使う魅力だと思う」


 米オープンAI(OpenAI)が今年リリースしたChatGPT-4oは、ユーザーとリアルタイムで会話をすることができるAIアシスタントだ。テキストや音声、画像を多言語で処理することができる。


 ChatGPTやグーグルが開発した対話型AI「ジェミニ(Gemini)」を含むAIアシスタントアプリは現在、急速に発展しており、教育や雇用など日常のあらゆる場面でアクセシビリティー(ユーザー補助)を高めるツールとして期待されている。


 イベント当日、藤本さんは小さなサルのマスコットのついた白杖(はくじょう)で点字ブロックをたどりながら、最寄りの駅を出発。GPT-4oとは、友達に話しかけるように会話をする。右耳にイヤホンを差し込んでAIの音声を聞き、左耳で車の音などに注意を向ける。


 イベント会場までの基本的な道順をAIに尋ねた後、藤本さんはもう一度問いかけた。「実は僕、全盲なんだ。目の見えない人のためにもう少し情報をくれないか」


「もちろん」とAIが答える。「ゴールに近づくと人混みの音が大きくなってくるはずだよ」


 視力のある人であれば駅から会場までの所要時間は徒歩で約20分だが、藤本さんはUターンを繰り返し、その4倍の時間を必要とした。


 途中で雨が降り始め雨脚はひどくなった。それでも、友人に助けを求め、無事会場にたどり着いた。


 スタジアムの敷地内に入ったことを確認した藤本さんは「到着!」と叫び、両手を突き上げた。




■極めて大きいAIの可能性


 AIは特定のニーズに応えることができる福祉支援技術──そう話すのは、英ユニバーシティー・カレッジ・ロンドン(UCL)のチョ・ヨンジュン(Youngjun Cho)准教授だ。


 UCLのグローバル・ディスアビリティ・イノベイティブ・ハブ(Global Disability Innovation Hub)にも勤務するチョ准教授は「その可能性は極めて大きい」とし、「この技術は多くの人に力を与え、個の自立を後押しするでしょう」と続けた。


 例えばAIは、聴覚に障害のある人のために話し言葉をテキストにしたり、学習障害のある人が履歴書を書くのを補助したりすることができる。


 デンマーク発の「ビーマイアイズ(Be My Eyes)」は視覚障害者のためのアプリだ。助けが必要な時にボランティアとライブチャットでつながることができる。Be My EyesはOpenAIと共同で双方向の対話が可能な「デジタルの視覚ボランティア」となることを目指している。


 しかし、障害とアクセシビリティーの専門家で自身も全盲である伊敷政英(Masahide Ishiki)氏によると、ChatGPTはその応答の自然さゆえにユーザーが誤った情報をうのみにしてしまう危険性があるという。


「リアルタイムの画像認識の精度を上げる。要は人間の目にいかに近づけるか」が生成AIにとっての次の段階と話す。


 障害者支援英団体、テック・フォー・ディスアビリティ・グループ(Tech for Disability group)のマーク・ゴブロット(Marc Goblot)氏は、生成AIが一般多数のユーザーから積み上げられたデータベースの上に成り立つがゆえに、少数派の視点を反映しづらい点についても指摘する。


 藤本さんも今回のAIとの「旅」で、ChatGPTには日本語や日本の地名を認識する力がまだまだ限定的であることを実感したという。


 AIを使った今回の試みは「楽しかった」が、ChatGPTを地図アプリと連携させることができればもっと楽に到着できたはずだと振り返る。


 藤本さんは昨年、グーグルマップ (Google Map)や周りの人たちの助けを借りて欧州を旅行した。次の旅の行き先はすでに決めている。鹿児島県屋久島だ。


「何が起きるかわからないけれど、そういうところを旅すると、どうなるんだろう。やってみたいな」

【翻訳編集】AFPBB News

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