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ネットで話題の韓国射撃選手、人気沸騰も本人は冷静 AFPインタビュー

AFPBB News 2024年12月25日 15時36分

【AFP=時事】今夏のパリ五輪で銀メダルを獲得した韓国の射撃選手キム・イェジ(32)。12歳で競技と出会ったときには、銃を持ち上げることもできなかったが、今ではインターネットで最も有名な射撃選手になっている。

パリ五輪の女子10メートルエアピストルで2位に入ったキムは、クールな立ち居振る舞いがネット上で大きな人気を博している。

本人によれば、射撃を始めたのはたまたまで、中学校の先生からやってみないかと誘われたときも、最初は手を挙げなかったという。それでも、なぜか選ばれて挑戦してみると、小柄で銃を構えられなかったにもかかわらず、競技のとりこになった。「かっこいいと思った」とキムは語る。

両親は射撃を始めることに大反対だったが、それでも「3日間、ご飯も食べずにやらせてほしいと泣き続けた」。おかげで、二人も最後には折れた。

「勉強に対してははっきりした目標を持ていなかったけど、射撃では一番になるしかないと思えた」と振り返るキムは、以降の人生を射撃にささげ、パリ五輪では「ただ一つの目標であるメダル獲得」を達成した。

大会中は、練習の妨げになる上に「有害」だという理由で、SNSは使っていなかった。そのため最初は、自身の試合映像がSNSで大きな話題を呼んでいることを知らなかったという。しかし記者から、ブラジルで生まれた大勢のファンに向けて、ポルトガル語であいさつしてほしいと求められ、異変に気づいた。

それでもキムは「自分が特別だとは思わなかったし、その気持ちは今も変わらない」「大勢のファンを集めるメダリストはたくさんいる。私もその一人というだけ」と語る。


■五輪後は取材殺到、俳優デビューも


キムが一躍注目を集めることになったのは、全身黒のウエアにキャップを後ろ向きにかぶり、射撃用めがねをかけてピストルを撃つ動画。世界記録を更新してもほとんど感情を表さず、観客が拍手する中で、静かに得点に目をやる。

この映像は、実は5月の大会中に撮影されたものだったが、パリ五輪中にSNSで大きな話題を呼び、「主人公感」があると評判になった。実業家のイーロン・マスク氏も「演技の必要ない」アクション映画にキムを出演させるべきだと呼びかけた。

だが、インターネットで話題になった超然としたスタイルは、本人にとって自然なやり方なのだという。「性格的には、せっかちなタイプ」で、もともと集中力を欠く面があったが、視線を一点に据えるといいというアドバイスに従ったところ、集中力と落ち着きが増したのだそうだ。今では「腕はもう単なる腕ではなく、すべて銃の一部」になったという。

五輪を終えて帰国すると、取材の申し込みが殺到し、ルイ・ヴィトンなどのブランドからのモデルの仕事も舞い込んだ。さらにはショートムービーの暗殺者役で俳優デビューも飾った。キム自身、愛する競技の認知度が高まるという点で、注目されるのは「ありがたいし、うれしい」と語っている。

その一方で、家族に支えられながら謙虚な姿勢も保っている。キムは笑いながら「父は、銀メダルを取った直後だからみんな少し大騒ぎしているのだろうと言っていた」と話し、6歳の娘からも「お母さんは金メダルを取れなかった」とよくからかわれると明かした。

トップ選手としての生活と、有名人としての活動とのバランスは、今のところ取れている。週に5日の練習に励みながら、写真撮影やインタビューは空いた時間にこなしている。今の目標は2028年のロサンゼルス五輪で金メダルを獲得すること。自身の選手としてのピークはまだこれからだと信じている。

射撃では年齢よりも技術、準備と努力が重要だと語るキムは、「去年と今年は自分にとって最高のシーズンだったけど、引き続き努力を怠らなければ、いいパフォーマンスを続けられる」と話し、50歳まで現役でいたいと口にした。

映像が話題になったことで、「ただのキム・イェジではなく、射撃選手のキム・イェジとして見られるようになった」というキムは、「活躍を続けて、『射撃選手』という言葉も定着させたい」と願っている。

キムはこのインタビューが行われた翌月の11月、競技から一時休養することが発表された。代理人は、選手生活と注目度の増加による疲労や、家族との時間を取ることが理由だと説明。引退したわけではなく、現在は復帰時期について話し合っていると述べている。
【翻訳編集】AFPBB News

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