【AFP=時事】「アンヌ・ド・キエフ(キーウ)」の愛称で知られるウクライナ軍第155機械化旅団は、フランスで訓練を受けたとして同国とウクライナの両大統領に大々的に喧伝(けんでん)され、ウクライナ軍の主力部隊となるはずだった。
だが、創設から数か月足らずで、二つの敵と戦う羽目になった。戦場で相対するロシア軍と、ウクライナ軍を震撼(しんかん)させた内部のスキャンダルだ。
ウクライナは、第155機械化旅団から1000人以上が脱走したとの報道に揺れている。ほとんどは戦場に派遣される前に離隊し、中にはフランスでの訓練中に脱走した兵士もいるとされる
このスキャンダルは、ロシアが侵攻を開始してからの約3年間でウクライナ軍を悩ませ続けてきた問題の氷山の一角にすぎないとみられているが、ウクライナにとっては政治的・軍事的に重要な節目で明るみに出た。
ミハイロ・ドラパティ陸軍司令官は、AFPも参加した第155機械化旅団のプレスツアーで、「確かに問題はある。私たちも認識している」とし、「公に明らかになった否定的な事柄」に関して「人員配置、訓練、指揮幕僚の一部に問題があった」と語った。
■「ユニークな」取り組みとフランスも称賛
フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、昨年開かれた第2次世界大戦のノルマンディー上陸作戦から80年を記念する式典で、中世のキエフ大公国からフランス王家に嫁いだ王妃「アンヌ・ド・キエフ」にちなんだ愛称を付けられた第155機械化旅団の創設を発表した。
フランス政府は「ユニークな」取り組みとして称賛。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、北大西洋条約機構(NATO)に訓練を受け、装備を提供された部隊をさらに数十部隊編成したいとの考えを示していた。
だが昨年12月、軍事ブロガー、ユーリー・ブトゥソフ氏が、第155機械化旅団から1700人が無断で離隊し、うち50人はフランスで訓練中に脱走したと指摘。同旅団のイメージは打ち砕かれた。
フランス政府は、同旅団の訓練中に「数十人」が脱走したことを認めたが、「ささいな」問題だと主張した。
ブトゥソフ氏は第155機械化旅団について、ロシア軍が奪取を試みている東部ドネツク州の要衝ポクロウシク近郊に展開した最初の数日間で、損失と「組織的混乱」が発生したとも指摘している。
このスキャンダルは、ロシア軍の阻止に苦戦しているウクライナ軍にとって、そしてNATOとの協力関係を深めたいゼレンスキー氏にとっても、恥ずべき失態となった。
ウクライナ軍はスキャンダルのさなかの1月、第155機械化旅団のプレスツアーを急きょ実施した。その際、タラス・マシモフ司令官は緊張した面持ちで、「メディアで報じられていることはすべてうそだ」と主張した。
だが、その数時間後、マシモフ氏の上官であるドラパティ氏は、スキャンダルがあったことを認めた。
一方で、取り沙汰されているような「規模」ではなく、第155機械化旅団の兵士が「任務を遂行できる」ように軍として「対策」を講じていると説明した。
■「組織的な問題」
兵員が不足し、新兵採用戦略でも不評を買っているウクライナ軍は、兵士の脱走と士気低下に神経をとがらせている。
現地メディアは9日、ウクライナ国家捜査局(SBI)の話として、無断離隊した兵士7000人以上が自主的に復隊したと報じた。
ドラパティ氏は、第155機械化旅団が直面しているのは、長年汚職が横行してきた同軍の他の部隊にも当てはまる「組織的な問題」だと説明。「これは秘密でも何でもない」と述べた。
ロシアの侵攻を受けるさなか、ウクライナの文官は、軍とのコミュニケーションに問題があると不満を漏らし、ソ連式の訓練を受けた軍幹部のやり方を嘆いてきた。
昨年11月、米陸軍士官学校で訓練を受け、ウクライナでは高名なパブロ・パリサ司令官が、ゼレンスキー内閣の副長官に任命された。主な目的は、大統領府に前線からのリアルタイムな情報を直接届ける橋渡しをすることにある。
アナリストのフランツステファン・ガディ氏はAFPに対し、ソ連体制の名残による問題だと説明。こうした体制では「指揮系統は高度に中央集権化され、決定権はしばしば戦場から遠く離れた所にいる高級幕僚にほぼ全面的に委ねられている」と続けた。
ロシアが2014年にクリミア半島を一方的に併合し、東部での親ロシア派武装勢力との内戦をあおるようになってから、ウクライナは自国軍をNATO基準に引き上げようと躍起になってきた。
新世代の将校は訓練を受けてきたが、システムそのものが根本的に変わったわけではなく、軍幹部による汚職スキャンダルや職権乱用に関する報道は後を絶たない。
兵士でインフルエンサーのバレリー・マルコス氏は最近SNSに投稿した動画で、「階級が上がれば上がるほど、法律から免れるようになる」と指摘した。
陸軍司令官のドラパティ氏でさえ、ウクライナの兵士は上官を「恐れる」ことが多いと認め、「ポストソ連の精神は根絶しなければならない」と述べた。
【翻訳編集】AFPBB News
だが、創設から数か月足らずで、二つの敵と戦う羽目になった。戦場で相対するロシア軍と、ウクライナ軍を震撼(しんかん)させた内部のスキャンダルだ。
ウクライナは、第155機械化旅団から1000人以上が脱走したとの報道に揺れている。ほとんどは戦場に派遣される前に離隊し、中にはフランスでの訓練中に脱走した兵士もいるとされる
このスキャンダルは、ロシアが侵攻を開始してからの約3年間でウクライナ軍を悩ませ続けてきた問題の氷山の一角にすぎないとみられているが、ウクライナにとっては政治的・軍事的に重要な節目で明るみに出た。
ミハイロ・ドラパティ陸軍司令官は、AFPも参加した第155機械化旅団のプレスツアーで、「確かに問題はある。私たちも認識している」とし、「公に明らかになった否定的な事柄」に関して「人員配置、訓練、指揮幕僚の一部に問題があった」と語った。
■「ユニークな」取り組みとフランスも称賛
フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、昨年開かれた第2次世界大戦のノルマンディー上陸作戦から80年を記念する式典で、中世のキエフ大公国からフランス王家に嫁いだ王妃「アンヌ・ド・キエフ」にちなんだ愛称を付けられた第155機械化旅団の創設を発表した。
フランス政府は「ユニークな」取り組みとして称賛。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、北大西洋条約機構(NATO)に訓練を受け、装備を提供された部隊をさらに数十部隊編成したいとの考えを示していた。
だが昨年12月、軍事ブロガー、ユーリー・ブトゥソフ氏が、第155機械化旅団から1700人が無断で離隊し、うち50人はフランスで訓練中に脱走したと指摘。同旅団のイメージは打ち砕かれた。
フランス政府は、同旅団の訓練中に「数十人」が脱走したことを認めたが、「ささいな」問題だと主張した。
ブトゥソフ氏は第155機械化旅団について、ロシア軍が奪取を試みている東部ドネツク州の要衝ポクロウシク近郊に展開した最初の数日間で、損失と「組織的混乱」が発生したとも指摘している。
このスキャンダルは、ロシア軍の阻止に苦戦しているウクライナ軍にとって、そしてNATOとの協力関係を深めたいゼレンスキー氏にとっても、恥ずべき失態となった。
ウクライナ軍はスキャンダルのさなかの1月、第155機械化旅団のプレスツアーを急きょ実施した。その際、タラス・マシモフ司令官は緊張した面持ちで、「メディアで報じられていることはすべてうそだ」と主張した。
だが、その数時間後、マシモフ氏の上官であるドラパティ氏は、スキャンダルがあったことを認めた。
一方で、取り沙汰されているような「規模」ではなく、第155機械化旅団の兵士が「任務を遂行できる」ように軍として「対策」を講じていると説明した。
■「組織的な問題」
兵員が不足し、新兵採用戦略でも不評を買っているウクライナ軍は、兵士の脱走と士気低下に神経をとがらせている。
現地メディアは9日、ウクライナ国家捜査局(SBI)の話として、無断離隊した兵士7000人以上が自主的に復隊したと報じた。
ドラパティ氏は、第155機械化旅団が直面しているのは、長年汚職が横行してきた同軍の他の部隊にも当てはまる「組織的な問題」だと説明。「これは秘密でも何でもない」と述べた。
ロシアの侵攻を受けるさなか、ウクライナの文官は、軍とのコミュニケーションに問題があると不満を漏らし、ソ連式の訓練を受けた軍幹部のやり方を嘆いてきた。
昨年11月、米陸軍士官学校で訓練を受け、ウクライナでは高名なパブロ・パリサ司令官が、ゼレンスキー内閣の副長官に任命された。主な目的は、大統領府に前線からのリアルタイムな情報を直接届ける橋渡しをすることにある。
アナリストのフランツステファン・ガディ氏はAFPに対し、ソ連体制の名残による問題だと説明。こうした体制では「指揮系統は高度に中央集権化され、決定権はしばしば戦場から遠く離れた所にいる高級幕僚にほぼ全面的に委ねられている」と続けた。
ロシアが2014年にクリミア半島を一方的に併合し、東部での親ロシア派武装勢力との内戦をあおるようになってから、ウクライナは自国軍をNATO基準に引き上げようと躍起になってきた。
新世代の将校は訓練を受けてきたが、システムそのものが根本的に変わったわけではなく、軍幹部による汚職スキャンダルや職権乱用に関する報道は後を絶たない。
兵士でインフルエンサーのバレリー・マルコス氏は最近SNSに投稿した動画で、「階級が上がれば上がるほど、法律から免れるようになる」と指摘した。
陸軍司令官のドラパティ氏でさえ、ウクライナの兵士は上官を「恐れる」ことが多いと認め、「ポストソ連の精神は根絶しなければならない」と述べた。
【翻訳編集】AFPBB News