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見た目激変!ロック様、人生を変えるきっかけになった人物をアツく演じて新境地

シネマトゥデイ 映画情報 2024年6月13日 16時50分

 ロック様ことドウェイン・ジョンソンの次回作に期待が高まっている。製作は、なんとA24。鬱々お祭りホラーの『ミッドサマー』(2019年)や、マルチバース功夫映画の『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(2022年)など、個性的な作品を発表しているスタジオだ。そしてタイトルは『ザ・スマッシング・マシーン/The Smashing Machine(原題)』。2025年に公開予定である。ドウェイン主演で、おまけにこんな景気のいいタイトルともなれば、さぞかし痛快なアクション映画に仕上がっているはず……と期待した、そこのあなた。残念ながら、この映画は(おそらく)いつものロック様印のアクション映画ではない。本作は総合格闘家マーク・ケアーの半生を追った実録映画である。ちなみに『The Smashing Machine(原題)』というタイトルは、彼の人生を追ったドキュメンタリー作品と同じタイトルであり、彼につけられた異名でもある。

 ここでまずマーク・ケアーという人物について、簡単に説明しておこう。彼は90年代後半から総合格闘技のリングに上がり、アメリカのUFC、そして日本のPRIDEでも活躍した選手だ。学生時代から磨いたレスリングの技術と、生まれ持った桁外れのパワーで、「霊長類ヒト科最強」と恐れられていた。間違いなく、あの頃の総合格闘技業界における名選手の1人である。しかし実はPRIDEで活躍していた頃から、深刻な薬物中毒に陥っていたという。試合の痛み、恐怖、プレッシャー……それらを克服するために、彼は強力な薬物を摂取していたのだ(先に触れたドキュメンタリー作品でも、彼が自分で薬物を注射する姿が収められている)。そして1999年、彼の肉体は限界に達した。試合前に薬の過剰摂取で心臓が止まってしまい、奇跡的に死を免れ、選手として復帰はしたが、かつての輝きを取り戻すことはできなかった。連敗を重ね、そのまま格闘技業界から引退する。幸いにも現在は家族と共に、平和な日々を過ごしているようだ。

 そんなマーク・ケアーだが、実はドウェインと人生が交差した瞬間があったという。ドウェインは今や映画俳優だが、そのキャリアのスタートはプロレスラーだ。とは言え、もちろん、いきなりブレイクできるほどプロレスは甘い業界ではない。90年代、ドウェインはプロレスラーとして頭打ちの状態になっていた。思った通りに金を稼げず、ブーイングを受ける毎日に嫌気がさしたドウェインは、なんと総合格闘技への転向、しかもPRIDEへの参戦を本気で考えていたという。そしてこのPRIDE参戦に向けて相談した相手が、マーク・ケアーだったというのだ。この時、ケアーがドウェインにどのようなアドバイスをしたかは分からない。しかし、結果的にドウェインは総合格闘技には転向せず、プロレスのリングに上がり続け、「ザ・ロック」=「ロック様」として大ブレイクを果たす。さらに映画の世界に足を踏み入れ、今や世界中で大人気のスーパースターとなった。

 そんなドウェインが、ケアーを演じる。なんという運命だろう。しかもドウェイン自身も、かつて鬱病に苦しんだ経験がある。そんな彼にとって、ケアーの人生は他人事ではないはずだ。総合格闘技とプロレスとでは性質は違えど、リングを仕事場に選んだ同業者として、同時代を生きた者として、心の問題を抱えた者同士として、何より人生の分岐点で相談をした仲として……ドウェインは並々ならぬ気合いを入れて、ケアー役に臨んでいるはずだ。それを証拠に、先日、ドウェインが劇中のシーンを公開したのだが……そこにいつもの問答無用に強くて、頼れて、無敵の「ロック様役」をこなすドウェイン・ジョンソンの姿はなかった。そこにいたのは、筋骨隆々でありながら、どこか不安を感じさせる、マーク・ケアーそのものだった。

 A24は、プロレスの世界に生きた男たちの悲劇と再生の物語を描いた傑作、『アイアンクロー』(2023年)を放った。おそらく『The Smashing Machine(原題)』も、同様の“実録モノ”の作品になるだろう。しかも監督は『アンカット・ダイヤモンド』(2019年)のベニー・サフディ、共演はエミリー・ブラント。まさに盤石の布陣である。この映画はドウェインにとって、俳優としての力量を試される戦いになるはずだ。難しい役どころだが、しかし成功すれば、彼は間違いなく俳優として次の段階に到達できる。渾身の主演作は、果たしてどのように仕上がり、何をもたらすのか? ドウェインのことを引き続き注視していきたい。(加藤よしき)

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