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西島秀俊「どの国の作品でもチャンスはある」独立&海外進出後もスタンス変わらず

シネマトゥデイ 映画情報 2024年7月7日 7時10分

 映画やドラマに引っ張りだこで、今や日本の映像業界に欠かせない存在である俳優・西島秀俊。2023年、ハリウッドの大手タレントエージェンシー、CAA(クリエイティブ・アーティスツ・エージェンシー)との契約が報道され、今年5月末に所属事務所を退所してフリーとなった。そんな彼のハリウッドデビュー作となるのが、Apple TV+配信のドラマ「サニー」だ。西島はどんな思いで本作に挑んだのだろうか。作品の舞台でもある日本で、胸の内を語った。

『ドライブ・マイ・カー』が担った役割

 「サニー」は、映画『へレディタリー/継承』『ミッドサマー』など数々のヒット作を世に送り出している制作プロダクション・A24 が手掛けるダークコメディー。ラシダ・ジョーンズが主演と製作総指揮を務め、西島はラシダ演じる京都在住のアメリカ人女性・スージーの夫で、優秀なロボット工学者のマサ・サカモトに扮する。

 西島といえば、第94回アカデミー賞で国際長編映画賞を受賞した映画『ドライブ・マイ・カー』(2021)で、世界中から注目される役者となった。今回のチャレンジについて、『ドライブ・マイ・カー』に触れつつ「あの作品のおかげで、たくさんの人が僕の演技を見たことがあるという状態になっていた。そのことは、仕事をする相手、まだ仕事をするか分からない相手にとってすごく大きいことなんです」としみじみ語る。

 続けて「もちろん、はじめて会う方には『自分自身はこういう人間なんです』と紹介する必要があるし『こういう考えを持っているんです』と伝えることは怠ってはいけません。ですが、(自分が出演している作品を観てくれているという)一つの基礎があるというのは、やっぱりすごくありがたいことです」と大きな出会いだったことを強調する。

 一方で「僕自身は何かが変わったことはないんです」とこれまで通り、作品に向き合う姿勢は変わらないというと「(映画『CUT』で作品を共にした)アミール・ナデリ監督や、(映画『女が眠る時』のメガホンをとった)ウェイン・ワン監督など、昔からご一緒したいなと思う方との縁はありましたし、映画というのは世界共通の言語であるので、人間を描く作品である以上、そのキャラクターに合っていれば、どの国の作品でもチャンスはあるのだと思っています」とスタンスを述べる。

俳優ファーストの撮影現場に脱帽

 「サニー」はA24の作品らしく、先が予想できない奇想天外な物語だ。西島は脚本を読んだ際「ダークコメディーだしSFだし、ミステリーでありサスペンスと盛りだくさん。そして1960~70年代の風味を持った近未来の日本が舞台という、ある意味でエンターテインメントのすべてが詰まった作品」という印象を受けたそうで、「一方で人と人との繋がりや、魂とはなんぞや……という深いテーマにも繋がる奥行きのある物語なんです」と一筋縄ではいかないストーリーラインに惹かれたという。

 本格的なハリウッド進出作となる本作について、西島は「とても幸運でした」と笑顔を見せる。その理由について「ラシダさんや、ショーランナーのケイティ・ロビンス、監督のルーシー・シャーニアクと最初の顔合わせの段階から、とても心が通じ合えたんです」と相性の良さに感謝すると、「撮影も脚本が全部渡されていないなか、ケイティが僕の演技を見て、マサという役をどんどん肉付けしていく。僕自身も演じながら、いろいろなことに気づいていく撮影はとても刺激的でした」と振り返る。

 もう一つ西島が驚いたのが、ドラマの撮影方法だ。劇中、スージーの元に贈られるサニーというロボットとのシーンが多いが、西島は「てっきりグリーンバックで想像力を働かせて演技をすると思っていたのですが、実際にサニーの声を演じたジョアンナ(・ソトムラ)さんという方が、リアルタイムで表情を作ってくださいました。CGではめ込むのではないんです」と語る。

 こうしたやり方によって、本当に生きているロボットと対峙しているように感じられるため、俳優は非常に心が揺さぶられる芝居ができるという。西島は「撮影現場でも、テクノロジーの進化によって新しい演技の可能性を追求できる。人の心の動きにも、大きく作用してくれると思います」と衝撃を受けたことを明かし、「日本でもこうした試みは今後増えていくと思います」と未来に思いを馳せていた。

演技を愛する若い世代へ「一緒に歩んでいきたい」

 監督やスタッフも徹底的な俳優ファーストにこだわり、撮影現場で大きな刺激を受けた西島。自身も今年5月で、22年間所属した事務所を退社し、新たなスタートを切った。

 西島は「これまで通り、自分自身のキャリアのなかで、さらに表現を突き詰めていきたい」と抱負を述べると「それにプラスして、こうして僕が新しいチャレンジをすることで、映画を愛して、ドラマを愛して、演技を愛している若い世代の俳優さんたちが、自分にもチャンスがあるんだと思ってもらえると嬉しいです。僕はいま事務所も退社して、何もないですから。そして、そういう思いがある方がいれば、仲間になって一緒に道を歩んでいきたい。新しい未来を切り開いていけたらいいなという思いは、漠然とですがあります」と熱い思いを吐露する。

 本作はストリーミングサービス「Apple TV+」で配信される。西島は「1本の映画が海外に行って、多くの方に観ていただけるには、非常に多くのステップが必要。そこを乗り越えた先に、やっと目に触れてもらえるというイメージがあります」と作品が世界中に届くためのプロセスの難しさを指摘し、「でも配信というのは、製作された段階で世界に観てもらえるという前提がある。それは俳優にとって大きな可能性だと思います」と語っていた。(取材・文:磯部正和)

Apple TV+「サニー」7月10日(水)全世界同時配信開始

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