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「ウルトラマンアーク」辻本貴則監督、初回3話で狙った“パターン崩し” 継田淳と挑む新機軸満載のウルトラマン

シネマトゥデイ 映画情報 2024年7月20日 10時0分

 ニュージェネレーションウルトラマンシリーズ通算12作目となる、新テレビシリーズ「ウルトラマンアーク」。作品の世界観を提示する第1話(6日放送)から第3話(20日放送)までを担当したのが、メイン監督の辻本貴則だ。オンエアに合わせてインタビューに応じた辻本監督が、立ち上げとなる初回3話の構成、ウルトラマンアークの魅力、監督が思い描く主人公のイメージから作品成立に至るまでの裏側を語った。(以下、第3話までの内容を含みます)

“バディもの”を軸に!辻本貴則&継田淳が生み出す唯一無二の世界観

 「ウルトラマンアーク」でシリーズ初のメイン監督に就任した辻本監督。これまで「ウルトラマンX」(2015)から「ウルトラマンブレーザー」(2023)まで参加した作品は通算7作品(※「オーブ」&「ジード」には未参加)となり、手掛けた作品は全33エピソード。その中から、特に思い出に残っているエピソード3本を聞いてみたところ、辻本監督は以下のように回答した。

 「分かりやすいところで挙げると『ウルトラマンZ』(2020)の第19話『最後の勇者』ですかね。ウルトラマンエースの客演回で、オンエア後には、SNSでファンの皆さんの反響の大きさをすごく感じました。それから、この第19話と二話持ちで撮影した第18話『2020年の再挑戦』も忘れられない回です。主人公のハルキ(平野宏周)とゲストヒロインの淡い交流を描いた物語で、今回『アーク』のシリーズ構成&メインライターをお願いした脚本家の継田淳さんと初めて組んだ回になります。もう1本挙げるとしたら、『ウルトラマンブレーザー』の第4話『エミ、かく戦えり』でしょうか。搗宮姫奈さん演じるエミ隊員のアクションを存分に撮ることができたし、特撮では軟体怪獣レヴィーラの液化表現を、実際のミニチュアセットの中でドロドロの液体を流して撮影したのが印象深いです」

 メイン監督を務める上では、コンビを組む脚本家の存在も欠かせない。先に辻本監督が挙げたように、脚本家の継田淳とは前述した「Z」以後、度々コンビを組んでおり、前作「ブレーザー」では辻本組の5本は全て継田が執筆している。「『ブレーザー』では監督が脚本家を指名できたので、全て継田さんにお願いしたのですが、もし自分がメイン監督をやる機会があるとしたら、絶対に継田さんとやろうと決めていたし、メインライターとなると、ある程度の本数をこなすことになるので、そういう含みもありました」

 そんな継田について、辻本は「何より描きたいキャラクター像についての『こうだよね』と言う共通項がいっぱいあったんです。そういう同じ感覚の持ち主と組みたかった」と起用の理由を明かす。

 二人で作品世界を構築していく中、ウルトラマンアークに変身する主人公・飛世ユウマ(戸塚有輝)と石堂シュウ(金田昇)の「バディもの」がひとつの軸に据えられた。第1話から第3話を通じては、今後への布石として、ユウマとシュウの場面が設けられており、とりわけ第3話のラストは、そうしたニュアンスを強く感じさせるものとなっていた。シュウについては、作品の背景としての防衛隊を登場させることが決まった際に、SIKPと防衛隊を繋ぐ人物として設定され、SKIPに常駐しているものの、地球防衛隊から派遣された特別調査員と異なる肩書を持つ。

 「これは継田さんのアイデアです。結局、怪獣が出現した際に、怪獣の動向に詳しい人物がSKIPにいないと話を転がしにくい。防衛隊を大きく描かないにしても存在する以上、そこから派遣された人物をひとり置いたらどうだろうか? と決まりました」。また、辻本監督曰く「シュウは美味しいキャラクター」であり、そこから導き出されたのが、「バディもの」であったという。「継田さんと設定を固めていく過程で、シュウのキャラクターがどんどん膨らみ、主人公と人気を二分しそうな勢いを感じました。『バディもの』のコンセプト自体は、『ウルトラマンタイガ』など、これまでの作品でもありましたが、今回は『男同士のバディもの』で行きたい。これに関してはプロデューサー陣とも意見が一致したところで、二人の関係性は、今後を楽しみにしていてもらいたいです」

飛世ユウマは「ごく普通の青年」主人公の人物設定に狙い

 ウルトラマンシリーズの主人公は、強烈なキャラクター性が求められるところだが、SKIPの新人メンバーとなる本作の主人公・飛世ユウマは、どこにでもいそうな、ごく普通の青年として設定されている。前述した「(シュウ)が主人公を食ってしまう」との懸念もそこにあったが、実はユウマのそうした人物設定には、辻本監督の確たる狙いがあった。「主人公の性格を気が強かったり、熱血漢であったり、強烈なリーダーシップを発揮するような人物にすると、それこそ、クラスにひとりいるかいないかの、手が届かない憧れの人になってしまうんです。僕なんかはそのひとりには絶対になれない人間だし(笑)、そういうスーパーな人間を主人公にしても面白くない。それよりは、ごく普通の子がごく普通の感覚を持って、物事に接していくほうが、視聴者には共感しやすいと思うんです」

 そのユウマを演じるのが、デビューして一年、主演はもちろん初となる新人の戸塚勇輝であるが、演出する立場として「キャストに役柄を説明する際に“普通の人です”とは言いがたい(笑)。特に戸塚くんは、ほぼ役者一発目でいきなり主役に抜てきされたわけですが、こちらが目指しているのは、何の変哲もない普通の青年なので、そこはけっこう考えながら演出していました」と苦労を語る。

 特撮ヒーロー作品全般に言えることだが、大半の作品の主役には、これからの活躍が期待される新人俳優が起用されるケースが多く、キャリアの少ない俳優にとっては、分かりやすい役柄のほうが演じやすいし、演出もしやすい。「監督業をするにおいて、役者の演出もいろいろなパターンがあると思うのですが、シリーズとして続いている以上、どうしても今までのメイン監督としての役割を求められることがあります」と語るが、本作ではあくまでごく普通の青年にこだわった。

 また、辻本監督は人物描写においては以下のように持論を展開する。「『こういうキャラクターだからこう演じてくれ』と言い切った方が答えは明確かもしれないけど、それを言った時点で、たくさんの可能性が失われる。自分が予想もしてない方向性の芝居があるかもしれないのに、いつもの自分の感覚を役者に押し付けて、いつも通りの型に収まったキャラにしてしまうのはもったいないことだなと。ただ今回は新人なので、とにかく自分の得意な芝居をやってもらって、それを僕が整える程度のことにしました。悩まず、芝居をのびのびやってもらうことが一番重要なので。そもそも自分は『この子はアウトドアタイプ』とか『この子はインドアタイプ』とか判を押したようなステレオタイプのキャラクターを作るのはあまり好きではありません。それこそ、第1~3話で、キャラクター性が分かってしまうと、残りの20数話は、予想を確認するだけの作業になってしまうじゃないですか。だから作品全体を通して、そこで初めてどういう人物か分かる作り方を目指しました」

ウルトラマンアークのデザインは「できる限りシンプルに」

 新ヒーロー・ウルトラマンアークについては、アシンメトリーのかなり攻めたデザインだったウルトラマンブレーザーと比べると、実にシンプルである。首元に黒が入る他は、赤と銀がメインと、どこか昭和のウルトラマンのテイストを漂わせている。

 「自分は昭和のウルトラマンシリーズが好きだから、できる限りシンプルにしたいと思っていて、デザイナーの後藤正行さんにも“後藤さんが描くシンプルなウルトラマンが見たいです”とお願いしました」。実は、初稿では肩にプロテクターが付いていたが、オミットされ、よりシンプルな方向性でまとめられた。そんな中、目を引くのが、頭部の穴である。「後藤さんの発想で描かれたものですね。最初は驚きましたが、これは非常に斬新だなと。むしろ、商品化の際にちゃんと再現されるのかな? と心配になりましたが、『大丈夫です』とのことで、自分としても大歓迎でした」。また目に関しては、ウルトラセブンを思わせる黄色の目をしたウルトラヒーローも久々となる。「これに関しては一度、ウルトラマンタイプの目も描いてもらったんです。だけど、やっぱりこっちの方が良かった。ですから、このセブンタイプの目に関しても後藤さん発信になります」

 ウルトラマンアークが使うアイテム関連については、ソリスアーマー、ルーナアーマーが発表されている他、アークアイソードは、いわゆるパワーアップアイテムではなく、第1話から早速登場した。辻本監督といえば、ヒーローが剣を振り下ろした際のケレン味溢れるパースカットもお馴染みであり、「ウルトラマンタイガ」の第18話「新しき世界のために」おいて、ウルトラマンタイガ トライストリウムがタイガトライブレードを手にした際に描いて以降、自身が手掛けたエピソードで度々描写しており、これもまた「辻本印」とでも言うべき監督のカラーのひとつである。

 「これまでも剣を手にしてカッコ良く決めるカットにはこだわってきたので、是非、自分で撮りたかったんです。打ち合わせで、どういう武器を使わせるか、どのタイミングで出すかを話していた際に、途中で出すなら最初からやりましょうと提案しました。いざ出来上がって来たら、メガネ状になっていたのは驚きましたが(笑)、ウルトラセブンのウルトラアイのイメージで、最初にメガネ部分が出現して遅れて刃と柄が形になるビジュアルが浮かび、これは面白く描けたんじゃないかなと思います」

 ウルトラマンアークの声として、俳優の萩原聖人を起用したのも話題となっている。「萩原さんとは、ドラマの『コードネームミラージュ』(2017)でご一緒したことがあるのですが、とても素晴らしいお芝居をされる俳優さんです。萩原さんは声優としても活動されていて、僕はアニメの仕事も多少やっていたので、現場で『俺、声優もやってるんだよ』『ええ、もちろん知ってますよ』なんて話をしていて。その際に声優の仕事も継続したいと、お聞きしていました」

 放送済みの1~3話では、ユウマとウルトラマンアークの対話が描かれていていたが、これらは辻本監督が絶対に入れたいと思っていた場面であり、そうした中、浮かんだのが萩原であった。「さすがに萩原さんクラスとなると、実際に起用するにはハードルが高かったかもしれない。ですが、プロデューサー陣が頑張ってくれて実現しました」

 萩原は声のみでなく、ユウマの過去が描かれた第3話で、ユウマの父親も演じた。これは、後から決まった役であり「アークの声の出演が決まった際に、声の出演だけではもったいない、是非本編にも出てもらいたいと思い、お父さん役もお願いすることにしました。もちろん、単なる便乗で決めたわけではなく、きちんと理由付けも考えてあるので、是非そこはシリーズを観続けてもらえればと思います」とアピールした。

王道だけではいかない、これからの「ウルトラマンアーク」

 本作では物語の導入も従来とはかなり異なり、ユウマとアークの出会いを後回しにするなど、パターン崩しが見られるが、その辺りにも辻本監督のこだわりが表れている。

 「いつも第1話でウルトラマンの心の声が聞こえてきたり、変身アイテムの使い方を描写したりしますが、毎年必ずやっていることなので、そういう導入はやめたいと思ったんです。それだけで尺も取られちゃいますし。そこは継田さんと何度も何度も打ち合わせを重ねる中で決まったことで、今回は『これをやめよう』『あれは継続しよう』をいろいろと考えました。もちろん、メイン監督としてやらなくちゃいけないことはあって、ウルトラマンと主人公の出会い、変身できることになった理由、従来のように防衛隊ではない組織が舞台、そういった三つくらいの大きな要素を第1~3話に散りばめていき、第1話はとにかくお客さんを引きつけつつ、作品世界とシュウのキャラを分からせること、第2話は『ウルトラマンアーク』の単発回としてのサンプル、そして第3話がウルトラマンとユウマの出会い。それが第3話までのシリーズ構成で、そこから第4~6話を撮る武居正能監督、越知靖監督……と各話の監督陣の個性が光る単発回に繋げていきたい。メイン監督としては、そういう思いで作っていました」

 「ウルトラマンアーク」のタイトルバックは、背景をCGではなく素材撮りしたものであり、また「ウルトラマン」の字体も「帰ってきたウルトラマン」のものを引用するなど、とりわけ昭和第二期ウルトラマンシリーズを好む辻本監督の趣向が表れている。「昭和大好きな自分へのファンの声もSNSを介して聞こえてきていますが(笑)、作品としても昭和第二期のベーシックな雰囲気を取り入れつつも、単発回と縦軸回とをバランスよく配分したつもりです。但し、話の展開自体は割とトリッキーで、王道ばかりではいかないぞと(笑)。そういったところを期待しつつ、第4話以降も楽しんでもらえればと思います」(取材・文:トヨタトモヒサ)

「ウルトラマンアーク」毎週土曜午前9時~テレ東系6局ネットほかにて放送中

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