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『キングダム』王騎の「ンフ」は台本になかった!佐藤信介監督が明かす

シネマトゥデイ 映画情報 2024年7月31日 6時2分

 原泰久の人気漫画を山崎賢人(※「崎」は「たつさき」)主演で実写映画化したシリーズの第4弾『キングダム 大将軍の帰還』(公開中)で、特に原作の再現度の高さが絶賛されている人気キャラクターの王騎について、演じる大沢たかおの役づくりの過程やシリーズを通して印象深いシーンを佐藤信介監督が語った(※一部ネタバレあり)。

 紀元前の中国春秋戦国時代が舞台の『キングダム』シリーズは、天下の大将軍になる夢を抱く戦災孤児の少年・信(山崎)が、秦国の若き国王・エイ政(後の始皇帝/吉沢亮※エイは、上に亡、中に口、下左から月、女、迅のつくり)の目指す中華統一のために他国との激戦に身を投じ、武将として成長していくアクション。中華全土にその名を轟かす王騎は、主人公・信が憧れる秦国随一の大将軍。シリーズ最終章と銘打つ本作では、前作で秦国の総大将として戦場に本格復帰した王騎が、その怪物ぶりを発揮して圧倒的な武力を見せつけるだけでなく、その過去も明かされる。

 2019年公開の第1作『キングダム』の公開前に王騎を大沢が演じることが発表された時は、“秦の怪鳥”とも称される筋骨隆々の王騎のルックとはかけ離れていることから不安の声もあった。佐藤も「もともとの大沢さんはスリムだから体つきは似ていないと思った」と認めるも、キャスティングについては似ているかどうかよりも大事にしたことがあったと振り返る。

 「昔から出演作を見ていて、大沢さんならではの“大沢ワールド”がある方だと感じていました。そこが、独特の世界を持つ王騎を実写として表現する時にフィットして花開くのではと。“王騎ワールド”と“大沢ワールド”がぶつかり合うことで破壊的エネルギーが生まれることに期待したし、その核融合みたいなものを撮りたかった。その頃はまだ大沢さんがここまで怒濤の肉体改造をされるとは知らなかったから、肉体は特殊メイクやCGで工夫すべきだろうし、撮影できるカットも限定されるだろうなど、いろいろ話し合っていました。ところが大沢さんがものすごい肉体に仕上げてきてくださったので、これなら加工なしでそのままいけるから、あとはコスチュームで王騎らしさをより強調しようということになっていきました」

 王騎の独特な言葉遣いやセリフ回しなど、芝居面での役づくりについて大沢は、正解のわからない中で常に試行錯誤しながら演じていたと語っているが、佐藤監督はその過程をどう見ていたのか。

 「1作目の撮影前の脚本(ホン)読みの時、大沢さんなりの演技プランもあった上で、『王騎ってどんな感じだろう』『こんな感じで喋ったらどうか』みたいなことから始まったと思います。まず王騎の声の感じを探った上で、どんな顔・形をしていて、どんな雰囲気なのか。実写化のイメージビジュアルなども示しつつ、『リアリティをもたらすために、ここはこうしてみよう』『こういうポーズをやってみましょう』など、いろんなやりとりを経てカスタマイズしながら、ちょっとずつ王騎像ができていったんです」

 撮影が始まってからも試行錯誤の役づくりはもちろん続く。「撮影現場で僕が一番気になったのは、例えば王騎が初めて王宮に入ってくる時、『王騎としてどう入ってくるのか?』ということ。それで考えた動きのプランを、大沢さんに伝えるわけです。『この台詞をまずこう言って、この後に歩き出してください』『王騎だったらここでは振り向かず、ここでやっと振り向くんじゃないか』といったふうに。そもそも王騎が入ってくる時にどこから撮るのか、というのも重要で。このポジションで撮るとこう見えるから、それが王騎らしく見えると。芝居も画作りも、自分の中では一体化しているので、そんなことの積み重ねが、王騎を作っていったように思います」

 原作にもある「ンフ」「ココココ」といった王騎独特のセリフも登場するが、これは当初、脚本には書かれていなかったそう。

 「原作通りの笑い方を意識しようとは思っていませんでした。でも大沢さんは、どこかでやろうと考えていたようで(笑)。撮影現場の本番前に撮るシーンの演技プランを説明した後、一度演じてもらって動きを確認する“段取り”の際、大沢さんが『ンフ』や『ココココ』を突然やられたので、みんな爆笑しました(笑)。大沢さんも僕も、やりすぎかどうかの塩梅は常に気にかけていましたが、やらなさすぎも違うと思っていましたし、もともとやりすぎかもしれないくらいの王騎を見たかったので、本番でもやってみましょうと。大沢さんも『本当にやります?』みたいに確認していましたし、やりすぎだと思った際は採用しなかったこともありますが、そんなやりとりはたまにありました」

~以下、ネタバレを含みます~

 1作目の際、特に実写版ならではの王騎を撮ることができたと実感できたのは王騎が序盤で成キョウ(本郷奏多※キョウは虫偏に喬)一派が居並ぶ王宮に入ってくる場面だという。「冒頭の王騎軍が現れるところも作品の方向性や狙いを具現化できた王騎のファーストカットで、撮りながら『これはいけるぞ!』という手応えを感じましたが、最も王騎らしさを実感できたのは、序盤で成キョウ一派が居並ぶ王宮に初めて入ってくるシーン。『これが王騎だ!』という画を撮れたなと思いました」と振り返る。そして最新作でも、王騎らしさを特に実感できたカットがあったという。

 「王騎が追い詰められてヤバい状況に陥った時、“久々ですねこの感覚、20年ぶり”みたいなことを言って笑うんですよね。『これは来たなあ!』という感じで、ニヤニヤしました。本当にいいものを見たなとか、いいものが撮れたという時はニヤニヤ。ゾクゾクしたり泣ける時は泣いていますね(笑)」

 そしてシリーズ4作を通して、最も思い入れ深い王騎のシーンを聞くと、王騎が敵将で宿敵のホウ煖(吉川晃司※ホウはまだれに龍)と一騎打ちをする前に初めて怒りを見せる最新作の場面をあげた。

 「なかなか怒らない王騎が怒った時は、この作品ならではのカットという感じがして印象深かった。そこはゾクッともしたし、今までの王騎はすべてこのためにあったようにも感じた。前作までの王騎は、ものすごい存在感と圧倒的パワーがあるとんでもないジョーカーで、いいタイミングで突然出てきて、邪魔して、目撃して、帰っていく遊撃的存在や神の視点的存在。だから、そういう存在として出てくる面白さを追求していましたが、その果てに担保されていたのが、今回描かれている王騎の運命。それは僕もすごく意識してやってきましたね」

 今作のためにやってきたという思いは、第1作からかかわってきた多くのスタッフとキャストに、共通認識としてあるようだ。企画立ち上げから8年以上かけてきたシリーズの熱い思いが詰まった集大成となっていることが窺えた。(取材・文:天本伸一郎)

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